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アイビスサマーダッシュさながらに、まっすぐ駆け抜けた2006年の夏

アイビスサマーダッシュといえば、サチノスイーティーが勝った2006年のことを思い出す。当時23歳、社会人1年目。過酷な毎日と恋に奔走しながら、まっすぐに駆け抜けた夏の話。

「なあ、この後まだ時間ある? よかったら..」

2006年7月16日。僕は、ある女性と2人の時間を過ごしていた。まだ梅雨は明けていなかったのだろうか、三連休の真ん中の日曜は終始どんよりした空模様。実家のクルマを拝借しての、特にこれといってあてのない旅である。

最高に楽しかった。

学生時代、同じコンビニでバイトしていた友人と2人で再会したのが、ほんの2ヶ月ほど前。仕事がつらくて、楽しく過ごす週末がせめてもの気分転換..そんな日々を送る中で、ふと食事に誘ったのがキッカケだった。決して下心などなかったはず。

しかし、ここで完全に堕ちることになる。

ほんの少しばかり会わなかっただけで、彼女は随分と大人びた雰囲気を漂わせていた。会社で必死に戦う毎日がそうさせたのだろうか。とにかく、僕は「顔見知りに一目惚れ」というよくわからない衝撃を受けてしまった。

それ以後も、何度か2人で食事に行き、意気投合しながら迎えたこの日も、出かけようと誘ったら二つ返事でOK。めちゃくちゃいい感じじゃないですか。



ちょうど時計は15時を回り、カフェでくつろいでいる時間帯にアイビスサマーダッシュの発走時刻を迎えた。
僕が事前に仕込んでいた馬券はマリンフェスタを中心にした馬連。直線1000mで勝ち鞍があり、3歳牝馬ながら前走バーデンバーデンCでも4着と、古馬にも通用するところを見せていた。何より当時は新進気鋭の部隊だった矢作芳人厩舎が自信を持って送り出すというところがポイント。この馬の絶対的なスピードを信じていた。

ただ、当然ながらデートを中断して競馬を見るわけにはいかないし、そもそも当時はインターネットでレース映像を見る手段など皆無に近い時代。発走時刻から10分ほど待ってから、テキストで結果を確認するのが精一杯だった。

1着 13番 サチノスイーティー
2着 10番 マリンフェスタ
3着 14番 レイズアンドコール

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

駐車場でクルマを出そうとしたスキにこっそり携帯で結果を確認し、ひとり小さくガッツポ。馬連55.6倍を500円買っていたので2万円以上の臨時収入である。

「なあ、この後まだ時間ある? よかったらお寿司でも食べに行かん? ちょっと競馬が当たってさ..」

すかさず延長戦突入作戦を敢行、である。それまで丸一日ずっと一緒に過ごすことなどなく、場合によっては「じゃあそろそろ..」という流れにもなりそうだったところで、最高の口実がちょうどよく生まれたわけだ。

ちょっと門限が厳しめな彼女もOK。なぜなら二人はいい感じだからだ。その後は軽く競馬の話などもしながら、「じゃあ今度は一緒に行ってみようや」という超定型文も飛び出すなど絶好調。おいしいお寿司も楽しみながら、一日のフィナーレを迎えた。

その一週間後、改めて会う時間を作ってもらい、無事に2人は付き合うことに。温泉旅行にも出かけ、浴衣で五山送り火を鑑賞し、斎藤佑樹と田中将大をひと目見ようと、満員の甲子園にも参戦した。

現在の奥さんとの思い出です。どうぞ安心してください。



年に一度の千直重賞が、今年もやってくる。その度に思い出すのが、アイビスサマーダッシュさながらに駆け抜けた2006年の夏のこと。心地よく、まっすぐに伸びていた道のりは、その先の人生にもしっかりとつながっていた。

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