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【競馬コラム】究極のスピードと瞬発力の激突

もうさ、いろんなところで語られてるから新鮮味には欠けるけども書く。上がり3F32.7秒のイクイノックスと、前半1000m57.4秒のパンサラッサのワンツーが成立するってすごいよ。

お互いに全く別の競馬をしている。

昨年の福島記念でツインターボばりの大逃げを決めて以降、国内外でそのスタイルを貫きながらどんどん強くなっていったパンサラッサ。競りかけてくる同型がいようともハナは譲らず、中途半端にケンカを売られたらぶっつぶしてきた。
舞台は秋の天皇賞。サイレンススズカの悲劇を持ち出すわけではないが、過去の歴史は逃げ馬にとって「鬼門」。どちらかといえば末脚を持ち味とするタイプが強いレースである。しかしこの馬にとってそんなことは関係ない。このところ少し出が鈍くなりつつあったスタートを決めると、最初に逃げの手をうかがったノースブリッジをあっさり制して単騎先頭。あとは後続をぐんぐん突き放して自らの形に持ち込んだ。

一方でイクイノックスはいつも通り控える形。春は皐月賞・日本ダービーとも2着に終わったが、昨秋の東スポ杯2歳Sで見せた32.9秒の豪脚が世代屈指のレベルであったことは明らか。どれだけ前と離されても、慌てず騒がず自分のタイミングでスパートすれば、届く。最後の直線に向いても手綱を持ったままのルメールからは「確信」が感じられた。

持久力を活かす逃げ馬と、ギリギリまで脚をタメたい差し馬。普通の競馬であれば、両者が並び立つことは難しいように思うが、あのタテ長の馬群の中でそれぞれが信念を貫いた結果がこのワンツーフィニッシュを呼んだ。

春の2戦でいずれも◎を打った戦友イクイノックスの戴冠は個人的にもうれしい。今回も能力的には十分に通用すると思っていたが、いかんせん最近のルメールの流れの悪さが気がかりで馬券は買えずにいた。ここでも結果が出ないようなら本格的にトンネルに迷い込んでしまいそうだっただけに、さぞかしうれしい勝利であったに違いない。

それからキタサンブラックが初年度産駒からG1馬を輩出したのもめでたい。ここ数年は牝馬の活躍が顕著で、なかなか高い期待を集めてスタッドインする牡馬が少ない現状だけに、今後の種牡馬戦線にも大きな影響を与えそうだ。土曜のアルテミスSもラヴェルが勝ち、久々に「キタサンまつり」がターフを賑わせた。

問題は次よ。キムテツ調教師は「何とか年内もう1走」とコメントしていたようだが、天皇賞を勝ったタイミングでこの談話が出てくる程度には使い減りの激しい馬である。ジャパンCはまず難しいだろうし、有馬記念もどうか..適性的にもちょっと違う気もする。「次はドバイターフです」って言われても何ら驚きはありません。とりあえず無理はしなくていいよ。

3着ダノンベルーガも、速い上がりで勝負できる舞台ならこれくらいやれて当然。てっきりパンサラッサに他の先行勢も絡んでいく消耗戦を想像していただけに、この馬はちょっと厳しいんじゃないかと思っていたら。

そんな展開になったのも、ジャックドールが慎重な立ち回りに終わったからではなかろうか。札幌記念ではパンサラッサを射程圏に入れて早めに捕らえにいったのに、今回は離れた2番手の一角を追走。これではこの馬の持ち味は活きないのでは。競りかけろとまでは言わないが、せめて単騎の2番手くらいは確保しておかないと..結局、前を捕らえきれないばかりか切れ味自慢の3歳馬の後塵も拝する形に。
スタイルを貫いた馬と、それができなかった馬の明暗。自ら勝負に行くことを願ってこの馬から馬券を買った人にとっては納得のいかない戦いになったことだろう。

横一線のメンバー構成で、果たしてどんな戦いになるのかイメージが沸きづらい天皇賞だったけれど、終わってみればなかなか見応えがあっていい余韻に浸ることができた。パンサラッサの大逃げを映すカメラの「引き」のアングルがサイレンススズカと瓜二つで、思わず当時のことがフラッシュバックしたよね。
これまた色んなところで語られてるけど、1000m通過が98年と同じ57.4秒。そんな偶然ってあるんかね。ただ、勝ち時計は今年の方が2秒も速いことを考えると、サイレンススズカの57.4秒はより凄みのある数字だとも言える。
そんな話ができるのもパンサラッサのおかげである。

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