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【競馬コラム】「前が壁!」の黒歴史も乗り越えて..福永祐一がピクシーナイトを若き短距離王へと導く

先日はJRA通算2,500勝を達成し、日本ダービーも4年で3度制するなど、40代を迎え円熟期に突入した福永祐一。だが、その輝かしい実績と同じように「黒歴史」を積み重ねてきたのも彼のジョッキー人生であった。

その一つが「ビッグアーサー前が壁!」の名実況で知られる16年スプリンターズSである。春に高松宮記念を制し、前哨戦のセントウルSも危なげない逃げ切り勝ちを収めたことで単勝1.8倍の圧倒的人気に推されながら、直線で進路を失い成す術なく馬群に沈んだことは記憶に新しい。

演出よりも公平性・正確性が求められるラジオNIKKEIの小塚歩アナウンサーにここまで絶望的な表現をされてしまう屈辱よ..w

それから5年が経ち、悲願であった日本ダービーのタイトルも手にしたことで彼自身の目に映る景色も大きく変わったように思う。「勝ちたい」という意欲はオブラートに包まれ、「勝たなければ」という重圧からも解放されたことで、いい意味でレースを客観的に捉えられている。そうすることで、自ずと活路も開けてゆくのだ。

ピクシーナイトを勝利に導いたスプリンターズSも、自然体の心構えがもたらした結果だった。
4番枠から好スタートを決めると、周りがさほど速くなかったこともあってあっさりと好位のインを確保。逃げるモズスーパーフレアを見ながらスパートのタイミングをうかがう形に持ち込めた。
こうなったら、あとはこの馬のポテンシャルを開放するだけ。直線入り口では一瞬だけ進路を探すところもあったが、2番手のビアンフェが失速したところを逃さず間を割ると、あとはゴールまで一直線。外から追いすがるレシステンシアを全く寄せ付けず、2馬身差の完勝を収めた。

勝利騎手インタビューでは「色々なケースを想定していたが、まさかあんないい位置を取れるとは」と愛馬の成長に驚きを隠せなかった様子。それでも必要以上にポジションを下げることなく、攻めのメンタルを貫いたことが一番の勝因だろう。己の選択に信念を持てる男は、どんな世界でもいい仕事ができる。

鞍上のことばかり誉めていてもピクシーナイトに怒られるかもしれない。3歳での短距離王襲名は07年のアストンマーチャン以来。10月上旬開催に替わってからは2頭目の「偉業」であり、今後の活躍にも期待がかかる。

この夏から本格的にスプリント路線に照準を合わせ、CBC賞・セントウルSともに2着。勝利には惜しくも届かなかったが、展開を問わない位置取りでレースを進められるセンスは光っていた。
しかし、これほどまで圧倒的な強さを発揮するとは..w
同じ音無秀孝厩舎・シルクレーシングのインディチャンプの弟分とも言えそうな立場から正式な後継者になれそう。国内外の大舞台で長く活躍してくれるはずだ。

そしてモーリス産駒のG1初制覇ということで、すなわちグラスワンダーから続く「父子4代でのG1勝利」を達成。これぞ日本競馬の血統レベルが向上したことを証明するもので、ひとりの競馬ファンとして単純に誇らしい。
モーリスの初年度産駒は「四天王」と呼ばれた良血馬たちが不振に苦しむ中、それでもこうして孝行息子が出現してくれたことで今後の楽しみも膨らんだ。

レシステンシアはソツなく立ち回るも勝ち馬には完敗。純正のスプリンターというタイプではないだけに、どうしても1200mのG1だとひと押しが足りないが、春の高松宮記念に続いての銀メダルは評価されるべきもの。この後はマイルCSあたりが視野に入ってくるかと思うが、ベストの1400mで圧勝するシーンが見たい。今から阪神Cの本命は決まりでいいだろう。

3番人気→2番人気の決着で馬連は890円と平穏な決着になったが、3着に10番人気のシヴァージが突っ込んだことで3連複は9,050円とちょい波乱に。
外が伸びない馬場傾向もあって、勝ち馬の後ろをついて回る進路取りがハマった。
そういえば春は高松宮記念を回避したんでしたっけ。その悔しさを少し晴らす激走になった。

悩めるメイケイエールが4着と健闘。ファンも多い馬だけにポジティブな結果として受け止められることかと思うが、今回もスタート直後に外へ出す際にタイセイビジョンやエイティーンガールに接触。両馬とも人気薄だったため大きな問題にはなっていないようだが、被害を受けたのが上位人気馬だったらもっと騒がれていたことだろう。
「能力はある、キッカケさえつかめれば」と言われながら課題が解消されず、他馬に迷惑をかけ続ける姿が藤浪晋太郎と重なって見える。阪神ファンゆえ普段は温厚な目線で彼のことを見守ってしまうが、こと部外者ともなるとこれだけ迷惑な存在なのかということを思わぬ形で認識させられてしまった。

1番人気のダノンスマッシュはまさかの6着完敗。昨年の香港スプリントを制し、春も高松宮記念を勝った現役最強スプリンターが、こんな形で敗れるとは。いくら前が残る馬場とはいえ、4角手前から手応えが怪しくなったようにこの馬自身も力を全く発揮できずに終わった。
安田隆行調教師は休み明けを敗因の一つに挙げていたが、フレッシュな状態でこそ走れるこの馬の特性を考えると的を射ているとは思えず..疑問の残る敗戦となった。
馬券は買わなかったが、普通にこの馬が勝つだろうと思っていただけに軽く呆然。買っていたらショックも大きかったことだろう。「秋のG1は堅い」というのが個人的に定説となりつつあるが、当てられるかどうかはまた別の話のようで。


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