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【競馬コラム】春の天皇賞「一騎打ち」列伝

昨年2着、歴戦の勇者ディープボンドか。それとも、菊花賞馬の誇りを胸に刻むタイトルホルダーか。
今週の天皇賞は2頭の一騎打ちムード。他の出走馬のレベルが正直そこまで高くないこともあって、両馬の存在がひときわ輝いて見える。もちろん、どちらも天皇盾の栄誉を得るに相応しい格を備えた強豪だけに、今から週末が楽しみ。

そして春の天皇賞といえば過去にも数多くの「一騎打ち」が繰り広げられてきた舞台。今回はその中からいくつかのレースを振り返り、当時の思い出などに触れてみたいと思う。それでは早速。

■ 2017年/キタサンブラックとサトノダイヤモンドの名勝負第2ラウンド

1番人気:キタサンブラック(2.2倍)
2番人気:サトノダイヤモンド(2.5倍)
3番人気:シャケトラ(9.9倍)
4番人気:シュヴァルグラン(12.0倍)

近年屈指の名勝負といえばやはりこれ。個人的には97年のマヤノトップガンに肩を並べるレベルだと思ってる。

前の年に天皇賞とジャパンCを制し古馬のエース格へと上り詰めていったキタサンブラックと、当時「最強世代」と謳われたハイレベルのクラシック戦線で菊花賞を制したサトノダイヤモンド。2頭が初めて対決した有馬記念でも人気を分け合い、ゴール前でサトノダイヤモンドがキタサンブラックをねじ伏せ新時代の到来を予感させた。
一方でキタサンブラックも「負けて強し」の2着だった。サトノダイヤモンドの僚馬サトノノブレスが途中からプレッシャーをかけにいく「アシスト」を振り払いながらの戦い。それでもゴール直前まで先頭を守り続けたのは、まさに古馬の意地だった。

このレース直後から2頭の再戦が楽しみで仕方がなかった。そして、早い段階からいずれも春の天皇賞を目指すことが決定。サトノダイヤモンドは阪神大賞典を単勝1.1倍の圧倒的人気に応え快勝を収めると、キタサンブラックはこの年からG1に昇格した大阪杯で始動。変わらぬ強さで4つ目のG1タイトルを獲得し、いよいよ2頭のマッチレースに対する期待は最高潮に達した。

レースは、単勝1番人気に支持されたキタサンブラックの独り舞台だった。大逃げを打つヤマカツライデンから離れた2番手を追走し、主導権を完全に掌握。2周目の坂の下りからジワリと先頭に並びかけると、直線では後続の追い上げを完封。決して楽なペースではなく、差し馬の脚も削られる厳しい戦いを自ら勝ちにいってねじ伏せた内容は、これまでのキタサンブラックにも感じられなかった「凄み」がにじみ出ていた。その衝撃は、06年にこのレースを制したディープインパクトと双璧を成すレベル。奇しくもそれ以降11年にわたって続いていた、1番人気馬の連敗が止まった瞬間でもあった。

サトノダイヤモンドはいつも通り中団追走から末脚を伸ばしにかかったが、息の入らないペースに苦しみ、シュヴァルグランにも先着を許し3着。明暗がくっきりと分かれる結果となった。菊花賞を勝ったとは言え、やはりディープインパクト産駒の身上といえば瞬発力。スタミナも問われる条件では分が悪かったかもしれない。

これが天皇賞通算8勝目となった武豊と、当時はまだ盾に縁のなかったルメールの戦いという意味でも「平成の盾男」の意地を見る一戦だった。もっとも、その後はルメールもフィエールマンで連覇を果たし、また秋の天皇賞もレイデオロやアーモンドアイで次々に制し「令和の盾男」に君臨することになる。

勝ち時計は3:12.5のスーパーレコード。しかし、その代償も大きかった。キタサンブラックが次に向かった宝塚記念では直線で全く伸びず9着と大敗。いつも安定して力を発揮できるキタサンブラックがここまで苦しむ姿を見ることになるとは。それだけ天皇賞の戦いが激しかった証拠である。
一方、サトノダイヤモンドは秋に凱旋門賞に挑戦。しかし欧州特有の力のいる馬場に苦しんだ。翌年も復活を目指して現役を続けるも、京都大賞典を制すのが精いっぱい。輝きを取り戻すことはできなかった。

このレース、叶うことなら現地で観戦したかったのですが2017年といえば子どもがまだ0歳。とてもじゃないけど家事育児全般をブッチして朝から淀に参戦できるような状況ではありませんでした。まあ仕方ないね。

■ 1996年/完全復活へナリタブライアン、マヤノトップガンとの「伝説」続編に待ち受けていたものは

1番人気:ナリタブライアン(1.7倍)
2番人気:マヤノトップガン(2.8倍)
3番人気:サクラローレル(14.5倍)
4番人気:ホッカイルソー(20.2倍)

これもまた王道の中の王道。圧倒的な強さで三冠馬となりながら故障に苦しむナリタブライアンと、若き王者マヤノトップガン。今も語り継がれる阪神大賞典での「伝説の叩き合い」の続編にどんな結果が待ち受けているのか、当時のファンはどれだけ楽しみにしたことだろう。
それを想像でしか語れないのは、まだギリギリ競馬に興味を持っていなかったから。ただ、たまたまこのレースはおばあちゃんの家で「他に見るもんもないし」くらいのノリで退屈しのぎにテレビを見ていたのをハッキリ覚えている。
当時中学2年生だったハシスポ少年の周りにもダビスタを筆頭とする競馬ブームの波は確実に押し寄せてきており、友人も競馬の話題でめちゃくちゃ盛り上がっていた。そうでなくてもナリタブライアンとマヤノトップガンの名前くらいは知っていたし、漠然と「ナリタブライアンの調子が悪いらしいのでここを勝ってほしい」くらいの気持ちで応援していた記憶がある。

今から見返してもレースは迫力しかない。折り合いに苦しみながら強引に先頭へ並びかけるマヤノトップガンと、それに離されまいと追走するナリタブライアン。一時は完全にナリタブライアンが先頭に躍り出るも、直後から忍び寄るのがサクラローレル。「は???誰???」と戸惑いながら、ピンクの服を着たジョッキーが高々と手を挙げるのも呆然と見つめるしかなかった。

関テレで実況を担当したのは、もちろん杉本清さん。懸命に粘ろうとするナリタブライアンにサクラローレルが並びかけたとき「交わすのか~! ..代わった~」の声としばしの沈黙から漏れ伝わる無念が愛おしい。完全なるナリタブライアン贔屓であるw そして翌日「おは朝」では競馬ファンで知られる山田雅人氏が「何すんねん横山典弘!!」とまあまあ本気でキレていたのも漠然と記憶に残ってる。この人ホンマめちゃくちゃやなw 
こうしてハシスポ少年の中では完全に「悪役」の印象を植え付けられてしまったサクラローレル。競馬に興味を持ち、彼のことを正当な目で見られるようになったのはこの年の秋のことであった。

ナリタブライアンはこの後、1200mの高松宮杯に出走する驚きの展開に。4着と善戦するも、結局これがラストランとなった。そして、チグハグな競馬で馬群に沈んだマヤノトップガンは翌年、田原成貴との人馬一体のレースでサクラローレルへのリベンジを実現することになる。

■ 1998年/メジロブライトとシルクジャスティスの明暗、そしてもう一つの伝説が始まった

1番人気:シルクジャスティス(2.0倍)
2番人気:メジロブライト(2.3倍)
3番人気:ダイワオーシュウ(13.5倍)
4番人気:ユーセイトップラン(15.5倍)

98年の阪神大賞典は、2頭の人気馬によるマッチレースとなった。そう、まるでナリタブライアンとマヤノトップガンのように。
主役を担ったのは、メジロブライトとシルクジャスティス。前年のクラシックでは惜敗が続いた2頭だったが、シルクジャスティスは有馬記念で古馬を蹴散らしG1初制覇。メジロブライトはステイヤーズS→AJCCと重賞を連勝して充実期突入を予感させた。
両馬の叩き合いはゴール寸前まで続き、わずかにハナ差だけメジロブライトが先着。ただ、休み明けで「使われて良くなる」典型的なタイプだったシルクジャスティスも五分に渡り合うさすがの内容。本番ではきっとまた名勝負が見られるに違いないと、まだ競馬ファン歴1年ちょいのハシスポ少年(当時高校1年生)のワクワクは止まらなかった。

阪神大賞典では惜しくも敗れたシルクジャスティスが単勝1番人気に支持された。G1馬でもあり、また前述のとおり連戦中のメジロブライトとの比較で上積みが大きいと判断されたのは妥当なところ。個人的にもシルクジャスティスが勝つんじゃないかと思っていた。
しかし、連勝中の勢いそのままに末脚を伸ばすメジロブライトに対しシルクジャスティスはモタモタ..新しいスターが古馬戦線に現れたのはよかったが、淡白なレース内容も手伝いどうにも盛り上がりに欠ける結末となってしまった。こんなはずじゃなかったのに..w

その後メジロブライトは長くG1戦線で奮闘するも、スペシャルウィークやグラスワンダーらには歯が立たず、これ以上タイトルを積み重ねることはできなかった。シルクジャスティスは下降線をたどり、古馬になってからは1勝もできずに終わった。あの阪神大賞典の高揚感を思うと、期待外れと言わざるを得ない結末になってしまった。

しかし、このレースで「もうひとつの伝説」が静かに幕を開けていたことも忘れてはならない。2着に突っ込んできたのはステイゴールド。この先、数々の伝説を残す「鬼才」が初めてG1で2着に入ったのがこのレースだった。


残念ながら若者なのでメジロマックイーンvsトウカイテイオーの対決には全く間に合わなかったんですけど、春天の「一騎打ち」といえばこれですよね。一般のニュースでも取り上げられるほどの盛り上がりだったと聞きます。

それに比べるとディープボンドvsタイトルホルダーの対戦カードはそこまで豪華なものではありませんけど、いいレースになってほしいですね。あと、「一騎打ちムード」がそのままの結果にならないのも春天の歴史。一角を崩す馬が現れるのか、あるいは波乱の決着が待ち受けているのか。楽しみですね。

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