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【競馬コラム】無名の条件馬が叶えたジャパニーズ・ドリーム

正直、どこの誰かわからなかった馬が京都大賞典でいきなり重賞初勝利を成し遂げると、返す刀でジャパンCも制覇。ヴェラアズールの2022年は、ジャパニーズ・ドリームを叶える1年となった。

改めて、この馬が年明けの時点でどうしていたのかを調べてみると、1月9日の濃尾特別(2勝クラス・ダート1800m)に出走し7番人気で7着。こんなもん空気ですわ。まさかここから古馬の王道路線を極めることになるなんて誰が思うことか。
ずーっとダートを使っていたのは決して陣営の見る目がなかったわけではなく、体質面の不安があったから。実際、この一戦を最後に芝路線へと舵を切ると、初戦の淡路特別を勝ちその後もトントン拍子に出世。前述の通り京都大賞典ですばらしい末脚を発揮すると、有力馬の一角としてジャパンCへと駒を進めることに。鞍上にも助っ人ライアン・ムーアが起用される熱の入りようであった。

ぶっちゃけ、相手関係にも恵まれたと思う。イクイノックスやタイトルホルダーらが不在で、1番人気が天皇賞で5着に敗れていたシャフリヤールというメンバー構成。ヴェラアズール自身、G1初出走ながら差のない単勝3番人気に支持されていたのが何よりの表れだと思う。

しかし直線の攻防はすばらしく見応えがあった。スローペースで一団になった馬群に包まれている間はその姿も認識できなかったが、坂を上がったあたりで進路を確保すると、残り100mでヴェルトライゼンデとシャフリヤールの間を割る形で豪脚一閃! 全くの無名だった条件馬が、世界にその名を轟かせた瞬間であった。

父エイシンフラッシュを思い出させるイン突きだったが、まあとにかくライアン・ムーアがすごい。最後の直線でなかなか前が開かなくても、ジッとチャンスをうかがうその冷静さ。ぎゅうぎゅう詰めの馬群で我慢するのは欧州で場数を踏んでいるだけにお手の物である。そしてゴーサインが出てからの迫力よ。グン!と最後の脚を使った瞬間が最高にカッコよかった。この馬から馬券を買ってた人はカタルシスすごかったと思う。

この日の東京競馬は午後からめちゃくちゃ中身の濃い競馬が続いており、やっぱり短期免許の外国人ジョッキーの共演ておもしろいなと再認識させられた次第。ここ2年ほどはコロナの影響で門戸が閉ざされ、その結果として日本の若手ジョッキーの台頭を促すという副産物もあったとはいえ、やはり彼らの手腕を身近に感じられる機会はあるに越したことはないのかなと。

もうひとり、讃えたいのが渡辺薫彦調教師である。我らがナベちゃんがG1トレーナーになった。しかも国内最高峰・ジャパンCの勲章を手にしたのだ。ナリタトップロードも喜んでますわ。

聞けばこの馬は2歳時から苦労が絶えず、ここまでたどり着くまでに相当な回り道を強いられてきた。それだけに喜びもひとしおだろうし、この難しい案件で最高の結果をもたらしたことでキャロット勢さらにはその他のノーザンF系クラブからの預託も増えていくかも。幸さんや吉田豊らの同期生。まだまだ調教師としてのキャリアはこれから。

余談ながらジャパンCの余韻に浸っていると京阪杯の本馬場入場が始まって、その瞬間に「そうか、おけいはん杯の日に渡辺厩舎がG1を!」と無意味にテンションが上がってしまったぜ。初代おけいはん水野麗奈さん、お元気ですか。おめでとうございます。

2着のシャフリヤールはこのスローペースで大外を回す形になったのが痛恨。古馬になってワンパンチ足りなくなりがちなディープインパクト産駒のダービーウィナーだが、この馬は「海外G1を制した唯一の日本ダービー勝ち馬」という尊い存在である。なのでもうちょい頑張ってくれw

ヴェルトライゼンデで長いブランクを克服しながらG1でも再び善戦できるようになっただけでも偉いし、復活の糸口を懸命に探るデアリングタクトの奮闘も目立った。ダノンベルーガはやっぱり2000mくらいが最適。
あとはユーバーレーベンが久々にこの馬らしくロンスパで勝負に出てくれたので満足。正直ここよりエリザベス女王杯の方が向いてるとは思うのだが、まあそこはゴチャゴチャ言うても仕方ない。

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