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【競馬コラム】東京2400m、武豊の大外一気。これぞ古き良き日本競馬の華

勝負の行方を占う上で、これほどまでに「馬場」を意識するようになったのはいつ頃からだろうか。前が残るのか、差しが届くのか。時にその傾向が馬の能力を凌駕する勢いで結果に影響を及ぼし、今となってはもはや馬場ウォッチなくして的中など考えられないほど重要なファクターとなっている。

まして近年は馬場の整備も行き届き、開催が進んでもなかなか内が荒れてこない。自ずと先行馬、インコースを通った馬が有利になるケースが多く、力のある馬でもシンプルに外を回っていては差し切るのは容易ではない。

リーディング上位を争うジョッキーは当然それを頭に入れており、特に福永祐一なんかはインタビューでも「どこを通るか」に重点を置いていることがよくわかる。コントレイルほど力の抜けた存在であればそこはアバウトでも勝てるが、それこそ18年にワグネリアンで初めて日本ダービーを制した際も外枠からポジションを取りに行ったことが勝利につながった。もし「馬のスタイルを貫いて」後方から末脚勝負に出ていたら、まず間違いなく勝てなかったことだろう。

一方で、かつて日本競馬の頂点を極めた武豊はどうだろう。近年の騎乗を見ていても、どちらかといえば「勝つため」よりも「馬に合った」ポジション取りに専念することが多い。だから明らかなスローペースで前残りの展開になっても、大外を回って届かない。そりゃそうでしょと思いながらレース後のコメントを見ると「わからない、思ったほど伸びなかった」ってうーん..近年のトレンドからはかけ離れたスタイルが変わらない以上、強い馬を任される頻度は戻ってこないと思う。

しかしハマればこれだけ美しい。東京2400m、武豊の大外一気。これぞ古き良き日本競馬の華。かつてアドマイヤベガやタニノギムレットが、そしてディープインパクトやキズナが駆けたビクトリーロードを、2022年ドウデュースが突き抜けた。(本当はスペシャルウィークの名前も入れたいんだけど彼は馬群のど真ん中をぶち抜いてきたので..)

独特のピッチ走法が、もうスタンドに突っ込んでくるんじゃないかってくらいの勢い。しびれるような手応えで4角を回ると、軽くゴーサインを出しただけで一気に馬群を飲み込んでいく。ドンピシャの先行策から一発を狙うアスクビクターモアを楽に捕らえると、内に進路を切り替えて迫るダノンベルーガも置いてけぼりに。最後は馬群を捌きながら外に持ち出したイクイノックスが迫るも時すでに遅し。皐月賞で敗れてもなお貫いた人馬の「スタイル」が、一番の大舞台で最高の結果を残すことになった。

武豊と凱旋門賞を勝つことしか考えていないキーファーズ軍だからこそ訪れたハッピーエンドとも言える。最近の世知辛い競馬界であれば、皐月賞で脚を余した敗戦で降板させられても不思議ではない。実際、武豊自身も過去にはアドマイヤオーラで乗り替わりを経験している。だが松島正昭代表にとっては「それがどうした」である。最愛の戦友にすべてを任せたことで、最高の恩返しを施されることとなった。

さて、こうなったら次は凱旋門賞である。場内インタビューで武豊が「オーナーは凱旋門賞が大好きな人なので..」と話していたがそれはむしろあんたやろとツッコまざるを得なかった。ドウデュースはそのために生まれてきたんだろうと思うので、行かない理由はないでしょう。酷暑の中でのレコード決着で厳しいレースになったとは思うが、どうか秋までいいコンディションで過ごしてもらいたいもの。

イクイノックスは皐月賞に続き2着。でもよく頑張りました。
大外枠から引っかかるのを恐れたか、そろっと出て後方3番手で1角へ突入。道中も流れたため直線勝負にかける形になったが、4角まで外に回さずコースロスを可能な限り防いだのがルメール流である。外へ出す際にほんの少し待たされる場面もあったが、厳しい枠から全力を出し切っての敗戦と言えるのでは。
馬券はこの馬から買っていたので、「あわよくばユタカさん勝って馬券も当たらんかな~」などと考えていたらちょうどいい結果になってくれました。ルメールさんも空気を読んでくれたかなw

アスクビクターモアは馬場を目いっぱい味方につけての好走。つかみどころのない田辺裕信だが、やる時はやるのである。ディープインパクト産駒ながら瞬発力勝負より粘り込みが得意なタイプ。それだけに東京替わりはどうかと思われたが、この形に持ち込めれば強い。トーセンホマレボシとかアポロソニックとかコズミックフォースとか、3着の伏兵はとにかく前である。

最終的に1番人気に支持されたダノンベルーガは4着。馬体減の影響がどうだったかは判断が難しいが、直線入り口での手応えからして劣勢で、外にも持ち出せず内に進路を取りながらのスパートで伸びきれなかった。決して責められる内容ではないのだが、皐月賞からもっとパフォーマンスを上げられると考えていただけにやや期待外れだった。

ジオグリフはいかにも「中山2000>>>東京2400」のタイプだと見ていただけにここで伸びあぐねた結果を見てひと安心。もうちょっと内枠がもらえれば立ち回り次第で掲示板くらいはあったはず。誰よりも馬場を気にする鞍上の思いもきっと同じはず。

先週のオークスは発送前のアクシデントの影響で力を発揮できずに終わった有力馬もいましたが、今週は大観衆にも暑さにも負けず各馬よく頑張ってくれたと思います。人も馬もこの大歓声を前に怯まず結果を残してこそ真の一流。そういう意味でもドウデュースは強い。

いつまでも余韻に浸っていたい名レース。馬券はちょい勝ち程度でしたが、何度も何度も動画を見返してしまう。大外に持ち出され、弾けるように末脚を伸ばすドウデュースと、キーファーズの勝負服に身を包んだ武豊の一糸乱れぬ騎乗フォーム。

ああ、すべてが美しい。

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