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【競馬コラム】脇役たちの躍進は続く

先週からの流れを引き継ぐかのように、「脇役」たちの躍進が続いた。

新潟の「千直」といえばミルファームである。2歳未勝利戦で10頭以上がノミネートする乗っ取り現象も毎夏の風物詩。生産・所有馬の血統もマイナーにしてバラエティに富んでおり、かつ命名のセンスも独特なこともあって独特の個性を放ち続けている。ヴィクトリアマイル3着で大波乱を巻き起こしたミナレットのようなスターも輩出した。

そして「千直」の頂点ともいえるアイビスサマーダッシュを、ついにミルファームが制する時が来た。殊勲者はビリーバー、7歳の牝馬である。
そもそも今年はトキメキ、ジュニパーベリーと合わせて3頭出しという時点で気合いが違った。そしてビリーバー自身も2年前のこのレースで3着と好走していたこともあり、以後2年にわたって一度も馬券に絡めずにいながらも単勝7番人気とまずまずの評価を受けていた。

レースは内に4頭、外に14頭と馬群がバラける形で進み、ゴール前は外の末脚比べ。先に抜け出していたシンシティを差し切る形で、ビリーバーが歓喜のゴールに飛び込んだ。ミルファーム軍、待望の重賞初勝利である。

鞍上の杉原誠人にとっても、そして管理する石毛善彦調教師にとっても同じく重賞初制覇だというから余計にめでたい。所属していた藤沢和雄厩舎の解散に伴いフリーに転身した杉原にとってもちろん大きな1勝となったが、開業29年目、そして定年まであと約3年という状況で初めて重賞を勝った石毛調教師の喜びたるや。こういう心温まる勝利こそ夏競馬の楽しみである。

初重賞といえば、土曜の新潟ジャンプSをホッコーメヴィウスで制した黒岩悠も、02年のデビューから21年目にして初めての勝利となった。障害戦を主戦場としていることもあるが、そもそもこれが通算で22勝目という数字からも苦労人であることがひしひしと伝わってくる。これまでで最も脚光を浴びたのが、「キタサンブラックの調教担当」であることは本人も誇らしい一方で複雑な気持ちもあっただろう。

ちょうど彼らの世代は外国人騎手や地方出身騎手が大挙してJRAに押し寄せてきた影響をモロに受けた世代。若くしてムチを置き助手に転向した柴原央明や生野賢一、あるいは調教助手になったあと厩舎を開業した長谷川浩大らのようにセカンドキャリアに活路を求めるケースも増えてきた中で、それでも諦めずに現役を続けてきたこと自体が、数字に残らない偉大さなんじゃないかと思う。この1勝で状況が一変するとは思えないけれど、一つタイトルを取ったことで競馬界で戦い生き抜いた証がくっきりと残されたのもまた事実だ。

来週は何が待ち受けているだろう。ちょうど先週のコラムで「中1週でエルムS..きっついか」と書いていたブラッティーキッドが登録。何かをやってくれそうな予感が漂ってきた。

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