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【競馬コラム】37年目の新天地

ノリさんが楽しそうだ。栗東の水が合っているというか、乗り役としてのニーズがあればまだまだこれだけ輝けるということを見せてくれている。デビュー37年目、間もなく54歳を迎える大ベテランの矜持。

何となく察しはついていたが、昆貢厩舎の馬を中心に乗るための「移転」だったことが、きさらぎ賞の後の記事で明言された。数年前から、重賞もない土曜に京都や阪神にやってきて、1クラ2クラ乗ってほなさいならみたいな日も何度か見かけて「ノリさんもさすがにきっついな..」と思っていたのだが、じっくり腰を据えて乗ることで現在は1日あたりの騎乗数も水準級に達しているし、勝ち鞍もコンスタントに挙げられている。そして何よりも重賞を早くも3つ制するという勝負強さは健在。

トライアルを使わず一発勝負でG1を狙う現代競馬の潮流と、レースを使いながら馬を作っていく横山典弘の流儀は明らかにミスマッチ。すでに少し古い話になるが、明け3歳からワンアンドオンリーの騎乗依頼を受けたのも「続けて乗せてもらえるなら」という条件付きだったと言われている。その結果として弥生賞はじっくりタメる競馬を教え、脚質に幅を持たせたことが日本ダービー制覇にもつながった。

そんな職人肌の乗り役と気が合うのが、ノーザンF生産馬をほぼ手がけない昆調教師というのも必然の巡り合わせ。外国人騎手や地方出身の騎手が全盛を迎えた時代にも、四位洋文とディープスカイで日本ダービー・NHKマイルCの変則二冠を成し遂げ、藤田伸二とはヒルノダムールやローレルゲレイロでG1を制した実績を持つ。彼らと同じような「昔ながらの」価値観で競馬と向き合うジョッキーなど、もはやノリさんくらいしか残されていない。そこで「今年の2歳馬はいいのが揃ってるから乗りに来てよ」とオファーを出せるのもカッコいいし、「厩舎と専属契約」なんて欧州みたいじゃないか。

そこに便乗するわけではないだろうけど、安田翔伍厩舎や長谷川浩大厩舎など、若い調教師からのオファーも増えているのが見逃せない。恐らくリーディングを争っていた頃のノリさんに対する特別な意識がある世代だし、実際に長谷川調教師なんかはセイウンスカイの菊花賞を見て騎手を志したわけだから、いわば「推し」が自らの管理馬に乗ってくれるなんて幸せ以外の何物でもないだろう。安田翔厩舎のトゥーレツリーで見せたシンガリ一気の追い込みなんか見せられたら、トレーナーとしてはもうたまらんやろね。

必要とされるところで思う存分に腕を振るうベテランと、彼を慕う調教師たちのコンビはこの春、どんな成果を残すだろう。JRAのG1は17年NHKマイルCをアエロリットで制して以来しばらく縁がないが、今の勢いなら大仕事をやってのけても不思議ではない。

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