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【競馬コラム】丹内祐次を侮るな

エルムSはブラッティーキッドと水口優也に注目していた。中央再転入後、負け無しの3連勝で1勝クラスからOP入りを果たした「雑草育ちの新星」。なかなか日の目を見ることのないジョッキーとのコンビで重賞まで手が届けばすばらしいストーリーが完結するところだったのだが、惜しくも4着まで。3角過ぎから手応えが怪しくなり脱落したかと思いきや、ゴール前ではまた盛り返してきたあたりまだまだ気性面で「悪ガキ」の顔が残っているのかも。それはすなわち伸びしろを残しているということでもあり、近いうちに雪辱の機会は訪れるのではないだろうか。

レースは直線入り口で先頭に並びかけた武豊のウェルドーンがそのまま押し切るかというところで、末脚を伸ばしてきたフルデプスリーダーが差し切り勝ち。鞍上の丹内祐次にとっては通算5度目の重賞制覇となった。

これまでは柴田大知と並んで、なぜかマイネル軍団にだけ重用されるジョッキーという印象があまりにも強かった。その名前にかけて「丹内は足んない」などと揶揄されることも多々あり。実際、成績面でもファンからの信頼を得るには心もとない状況が続いていた。
それでも15年のマーチSをマイネルクロップで制し自身初の重賞勝ちを収めると、翌年には地元の花形レースである函館記念をマイネルミラノで制覇。20年にもリンゴアメで函館2歳Sを勝ち、昨年はゴールドシップ産駒ウインキートスで目黒記念を制すと、エリザベス女王杯や有馬記念といったG1の舞台も経験。勝ち数もキャリアハイの38勝をマークした。

まあここまで登場した馬、全部ビッグレッド軍の関係なんですけどね。

そんな積み重ねもあってか、今季はまだ全日程の3分の2も消化していないタイミングで昨年に匹敵する勝ち数を残し、ちょうどこのエルムSで昨年終了時と同じ38勝に到達。これは彼にとってはとんでもないペースだ。しかも殊勲のフルデプスリーダーはお抱えのマイネル軍団とは無関係。前走マリーンSで手綱を取っていた横山武史がシャーガーC参戦で欧州遠征中ということで、勝機のある一戦で白羽の矢が立てられた「勝負の代打」を任されたことが、幅広く関係者から期待されている何よりの証だ。

レースでも有力先行馬の直後に位置取り、勝負どころでも距離をロスすることなく立ち回る好騎乗。少しでも無駄があったらウェルドーンの逃げ切りを許していたことだろう。勝つ時は何もかもがうまくいくものだ。今回は第だということもあって今後も同馬とコンビを継続できるかは微妙だと思うが、こうして結果を残していくことでまた別のチャンスも回ってくるだろう。そうして成り上がっていったジョッキーを、競馬ファンは何人も知っている。

もう「足んない」とは言わせない。デビュー18年目にして充実期を迎えた乗り役の戦いは、丹内祐次を侮るなという強烈なメッセージとなった。

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