見出し画像

【競馬】ルーキー古川奈穂にいきなりバスラットレオンを任せる矢作芳人調教師の「覚悟」

やると決めたらとことんやる。それが矢作芳人調教師の生き方だ。

来週13日(土)の1勝クラス戦に出走予定のバスラットレオンの鞍上に、厩舎所属のルーキー・古川奈穂を起用するのだという。平場戦とはいえ、春の目標NHKマイルCに駒を進めるには落とせない一戦。すでに重賞でも好走した実績を持つ期待馬の手綱を、現時点ではまだデビューすらしていない「ど新人」に任せるとは。会社員でいえば、入社式を終えたばかりの新人が研修期間中にもかかわらず小規模のプロジェクトリーダーを任されるようなもの。

いくら何でも驚きである。

これまで主に騎乗してきた坂井瑠星が、現在サウジアラビア〜ドバイと海外遠征中。この期間内にレースを使うことは早くから伝えられており、きっと藤岡佑介あたりに乗り替わってサクッと勝っちゃうんだろうなと想像していただけに、まさか思いもよらない展開が待っていた。

しかし、これこそが矢作流。

厩舎開業当初から「1円でも多く稼ぐ!」と目標を掲げ、決してエリート血統ではない管理馬たちを率いてフル稼働。着実に成績を伸ばすと、10年目に初めてリーディングを獲得。それ以降も通算3度トップの座に就き、日本を代表する厩舎へと上り詰めていった。
とにかくレース数を使い、工夫に工夫を重ねた番組選定で一つでも多くの勝利を、一つでも上の着順を狙う妥協なきスタイルは、良血馬が揃った現在も変わることはない。

人を育てるのも同じだ。これまで弟子を取ることは控えてきた矢作調教師が初めて迎え入れたのが坂井瑠星。デビュー時から管理馬を積極的に起用してきたばかりか、豪州への長期遠征を後押しするなど、一貫して「世界に通用するジョッキー」を目指し続けている。下級条件戦はもちろんのこと、重賞・OPの出走馬に経験の浅い弟子を乗せるにはどれほどの馬主への説得が必要だったかは想像に難くないが、それも厭わないのが「覚悟」というもの。

今回の古川奈穂の起用も「覚悟」の表れでしかない。重賞でも勝ち負けできる、G1を視野に入れている馬で、まして個人の馬主さんではなくクラブ法人の馬を乗せるだなんて、生半可な折衝では実現しない話。実際、広尾レースの会員さんだって複雑な心境なのが偽らざる本音だろう。それでも師匠として、預かった弟子の背中は全力で押す。

矢作調教師の育成とはそういうものだ。やると決めたらとことんやる。

これだけ責任重大なレースを、デビュー間もない身で任されるプレッシャーも半端なものではないだろう。しかし安心してほしい。たとえ失敗したとしても、努力を続ける人間を一度や二度のミスで見限るようなことは絶対にしない人だ。
これまで坂井瑠星だって散々やらかしてきた。それでもまたのし上がるチャンスを与え、少しずつ成果を残しつつあるのが現在の姿。彼が今ドバイの地にいるのも、ジャスティンを任せ続けられたからに他ならない。

だから古川奈穂も臆することなく思い切り乗ってほしい。4キロ減の恵量を活かして、バスラットレオンを気分よく走らせてほしい。そしてもし、実力通りに相棒を勝たせることができたら、きっと師匠はニヤリとこう言うだろう。

「瑠星よりうまいね。これからどんどん勝てるよ」と。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?