見出し画像

【競馬コラム】執念か、それとも狂気か。桜花賞トライアル連闘といえば..

先週のチューリップ賞をナミュールが制し、きょう行われたフィリーズレビューはサブライムアンセムが勝利。中山のアネモネSではクロスマジェスティが権利をつかむなど、桜花賞戦線2022も勢力図がだいぶ明確になってきた。今は優先出走権を得ても本番に向かわないケースもある時代ながら、最後のチャンスを巡る白熱した戦いはこの時期ならではの迫力をまとっている。

それと同時に思い出すのが、ディアデラノビアの「桜花賞トライアル連闘」だ。圧倒的人気に支持されながら7着に敗れたチューリップ賞の翌週に、何とフィリーズレビューに参戦。まだ心身とも未完成な3歳牝馬にはあまりにも過酷な道のりを選んだ背景には何があったのだろう。

考えれば考えるほど謎だ。確かにチューリップ賞の負け方は不完全燃焼そのものだった。デビューから2戦2勝、サンデーサイレンス産駒らしい末脚の威力を見ると単勝1.5倍の評価が集まるのも不思議ではなかった。しかしスローペースにハマって馬群を捌けずに終了。この年の春の安藤勝己はどうもリズムに乗り切れていない印象があったが、それを象徴するような敗戦でもあった。
ただ、これだけの期待馬である。桜花賞は諦めても潔くオークスに照準を合わせるのが定石ではなかろうか。同じ角居勝彦厩舎には、これまた同じキャロットFのシーザリオという「もう一枚のカード」も持っていたわけだからなおさらだ。さすがに当時どのような報道がなされていたかは記憶にないが、シンプルに驚いたことだけは覚えている。
考えられるとすれば、まだ当時はキャロットFも角居厩舎も「新進気鋭」のポジションにあり、新しいスタイルへの挑戦を追い求めていたのかもしれない。そして、結果を残して自らの選択肢が正しかったことを証明しようとしていたのかも。完全に憶測の域を出ないが。

かくしてフィリーズレビューに参戦を果たしたディアデラノビア。ファンはそれでも見捨てることなどなく、単勝4.2倍の2番人気に支持した。先週に引き続き手綱を取った安藤勝己も、今度は包まれることもなく外を回って追い上げる形。直線ではスムーズにスパートに入った。

しかし、わずかに伸びきれず4着。勝ち馬ラインクラフトからアタマ+クビ+クビ差の接戦ながら、優先出走権獲得はならなかった。後から考えると、焦りからか少しスパートが早かったようにも映るし、そもそも上位3頭がラインクラフト・デアリングハート・エアメサイアと3着以内を確保するにも簡単ではないメンバーだった。

かくして2週連続のチャレンジも実を結ぶことなく終わったディアデラノビアの桜花賞。しかし「オークスへ切り替えていく」とばかりに翌月にはフローラSに出走すると、代打・武豊の真骨頂ともいえるギリギリまで脚をタメて追い込む大外一気で勝利。ようやく大舞台への出走権を得ると本番でもシーザリオの3着と善戦。その後もG1・重賞戦線で長く活躍し、母としてもドレッドノータスやディアデラマドレらを輩出したのはご存知のことだろう。

もしフィリーズレビューで権利を取っていたら桜花賞にコマを進めていたのだろうか、そしてどんな結果が待っていたのだろうか。それは想像もつかないが、きっとそこでも角居厩舎の腕が問われたことは間違いないだろう。そして、桜花賞を断念した後にもフローラS→オークスという「正規ルート」を歩み、最大級の結果をもたらしたのは紛れもなく厩舎力の賜物だろう。そして、3歳秋こそ骨折で休養を強いられたものの、6歳春まで無事に現役生活を続行できたことも評価せねばならない。
「ゆとりローテ」だの使い分けだの、ノーザンFを中心に無理をさせない競走馬の運用を批判的にとらえる人も増えてきた。しかし、こうした執念とも狂気ともいえるローテーションで痛い目に遭った経験も踏まえて今があるということも書き記しておきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?