文極キャス20180306【真似事の丸屋根】

ちいさな丸屋根の下で
音もない やわらかな 優しい冷気を
君と吸って吐いている

葉を笑わせるくらいの風に
進路を曲げられるくらいの弱い水

丸屋根の外はぼんやりと霞みはすれど
ここよりは湿り気を含んでいない

ずっとこのままがいいなんて
私だけがきっと思っている
姿だけ真似事の丸屋根が
ずっと降らせている淡い粒子を
幸せだと受けているのは
きっと私だけだ
だから 君の小指に触れた私の人差し指の第二関節は
その温みを記憶する

心を絞れば滴る
力を入れないようにそっと触れて
震えるそこを軽く食む

あいしている
あいしている
よく知りもしない言葉を無言で呟くと
新しく落ちる滴も音は忘れている

人差し指が握られて
私は全部で記憶する

長く終わりの知れない息のあと
陰った視界は人差し指と似た思いをした

丸屋根は病を患い
約束されたはずの力を持たず
私たちをそっと濡らし続ける

僕だって選んだんだ
不意の声が夢現の向こうから
薄く開けた目に七色

そのままもう一度目を閉じて
体温が増えたことを追っても取り落として
静かに意識は溶ける

開けば止まない雨が
どうかそのままふたりの名前であるように

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