文極キャス20181127【雨色を選べば】

個も私も不要の壇上。
轆轤に乗る公。
美しいライトの下の狭い世界。

役割を全うさせる方法を第一階層で連ねる。

ガラスペンより万年筆を選ぶ。
それが最も必要なことだと信じていた。


最も必要なこと。
だと。
信じていた。
と万年筆は綴る。


黒の痕跡を目に焼いて。
いつの間にか372日目が始まっていた。


湧き上がる赤を感じている。
赤、と言うよりは赤墨。

雲が厚みを増し、降りる声は
降り始めの雨、5秒の匂いをもって。

遠くを思え。
灰青の。
と告げた。


澄んだ、透明のような、青を思えない今を
雨は優しく慮って。
せめて灰青だけでも。
せめて赤でなければいいのだからと。


揺れる。視界。
私は、自分すら、
片目でしか見られていない。

右を覆っている。自分で右を覆っている。
未来を覆っている。

わかっているのだ。
このイメージは未来を恐れている。


せめて目線を遠く。
未来は恐ろしいものじゃない。


雨は右目を優しく霞ませる。


選び、選べなかった私の周りに
鉄槌が重なり倒れ、
それも忘れていたと気づく。
鉄槌が地面を打つ音を聞いたはずなのに、忘れていた。
何度も、何度も、聞いたはずなのに。


美しいライトは鋼の屍を照らさなかったのだ。
役割だけが美しくあるように。


引き出しの奥をそろそろと探る。
震える指先を許す。
私が好きだった澄んだひと続きが触れて。

雨色のインクが宙を踊った。



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