文極キャス20180529【三ツ角霞んで彼岸花】

そうだコンビニ行こうかな
くらいの勢いで

誰か
消してくれないかな。
なんなら消しゴムで。

神様がもしいるのなら
すぐに
全部
巻き戻して
僕より前まで。

零し落として銀。
目の前に現れる馴染みの黒髪。

ぜいぜいとした声の
君が生きればよかったんだ

あなたはいつもそればっかり
の静熱の波紋。

ああ。
そうだよ。
紅茶を淹れて飲むのと変わらない。

ゼツ ゼツ ゼツ ゼツ。

僕を見る目に紫が差してから
君は飾り階段で
悲しそうに足をぶらつかせる。

どうしても離れていかない無数の木の葉は
すべて鈍い切れ味を増して

あれもこれも嫌いで見たくも聞きたくもないから
失せろと言いたくなる。
僕へ。

足元が
落ちればいい。

しくしくと泣いた
内側から裾を引く
僕のC。

消えたい僕を印刷した
透明なフィルムが
あまりに折り重なって

ああ。
だからお前がいる。

代わりに泣いている
僕のC。

代わりに泣けなくなった
僕。

どんなに抱いても撫でても
宥められない
Cを
僕はそれでも抱いて撫ぜた。

ずっと待ってるのに。

ああ。
知ってるよ。
ずっと待ってたよな。

君がCを奪って
それから僕ごと抱きしめた。

私じゃないってわかってる。

ああ。
知ってるよ。
ずっと待ってるからな。

耳の中で
ちりちりと鳴り続ける
薄い薄い薄い緑のセロファン。

僕が受け止められない愛が
そこで何年も何年も
回り続けている。

透明味の
チョコレートファウンテン。

もたつく音は止まない。
慣れても可聴。
鉄色の部屋に陣取る機械の泉。

抱きしめる腕は無色の温度で
確かな空洞を透かし続ける。

ここはあまりに強固な
オニオンスキンの部屋だ。

僕達は身を寄せ合うけれど
砕けたビー玉の擦れる
ぎゃりぎゃりという音が
モーター音に重なるだけだった。

何度目か何百度目かの
ひとつづき。

不意に背中が感じたのは36℃超えの外界。
違う音がするけれど
WiFiが途切れるように
よく聞こえない。

うまく反応できないまま
首筋に
輪っか。キス。呼気が触れる。
少し小さい輪っか。少し軽いキス。呼気。

繰り返される
聞こえない音。



新月の窓の向こう
コンビニが消灯する。
代わりに差し込まれる真暗夜は
すぐにその名を失って
0の羅列から進化していく。

微笑む君が吐き出す菜花の色。
見上げるCの目に舞う桃花の色。

失われた温度がじわりと滲み出して
僕は深く息をする。


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