文極キャス20180206【鎖解の約束】

黒い森の向こう
白い森の奥
鉱石の砂岸

持っていたカルセドニーをひとつ
そこに還らせる

静かに波打つ湖の水は水晶でできていた
私は歩を進める
氷の化身は私の膝までを濡らして
その温度を共有させる
共有させて
境界は消える


浅瀬の先
空を見上げ
真上に流れる雲を映すと
くるり くるりと 円を重ねて 渦
巻いて
舞い
降りる白トカゲが私の頭に冠を作って

あなたは
約束を
果たしに来た



約束をしに来たのでは
という問いは言葉になる前に溶け

ああ そうだった
と思い出す


この閉じ込められた鉱石のくにを
私が今たどりついた美しさを
そっと手を引いて 開いて つないで
あちらに顕すと決めて
随分 随分と前に契約書を書いて
だから来たのだ ここへ


白トカゲは私の頭で
うたをうたう
私もそれにそっと合わせた


湖の中
フローライトが私を見下ろす
すべてがうつくしいこのくにを
少し秘密にしておきたい
けれど私は約束を果たすのだ


ポケットの中の小さな音叉で
空を叩いて
私は高らかに私をはじめる

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