文極キャス20180403【とざしてあなたと箱庭茶】

喉を狭く通るリコリス
雨の柔らかな痛み
薄青紫琥珀糖
目の奥の夜空
月が見ている小さな茶会
鉱石の庭を共有して一筆箋を交わす
右上角に魔法をかけて

あの日のあなたは
プレナイトのさざれを落として去った
私はそっとそれを拾って机の上の木箱へ
それできっと終わるはずの
いつものノートに淡色で書き残して
いつか棚にしまわれるだけの些事

あの夜あの庭で会うと思わなかった
あなたが降らせるプレナイトを
あの日より少し多く拾って
それから勧められるままにふたりでお茶を飲んだ
プレナイトを降らせるくせに
あなたの瞳はエレミアで不思議だった

リコリスが喉を狭く通る
柔らかく落ちる霧雨の中で
琥珀糖が青紫の光を灯して
夜空がエレミアと共鳴する
小さな茶会は月の眠りとともに終わろうとしている
私は持っていた一筆箋に三行詩を綴り
右上角に魔法をかけた
鉱石の庭の丸テーブルにそれを置き
最後の琥珀糖を口に含む

ふたつの出口
帰路は反対方向で
テーブルの上の自分のものでない一筆箋を
そっと指に絡める
八歩歩いて振り返ると
白いティーセットだけがぼんやりと浮かび上がっていた

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