文極キャス20180501【終末の花園にて】

やっと手に入れることのできた
束の間とわかっている平穏を、
今はそっと抱いておこうと思う。

固く仮死していた時間がようやく死に至る。
その前の、ほんの少しの、弛緩。
色も温度も一度蘇り、その日をそっと待つ。
ここは始まりの地によく似ている。

全てが過去形で望まれていく。
それが答えだと知った時に未来がないことを知った。
そこでもここでも少しずつ形が失われていく。
線を折り曲げて、今は目の前にあるそれを選ぶのならば
ここ、でなく、人がひとり死ぬ。

あの日現れた虚しさを哀しみ、
その痛みを遠ざけるために別の虚しさを生んで置いた。
連鎖の中でたらりと落ちる黒が虚しさを埋めて違うものにした。
違う、ものに、した、から。
遠く遠く落日を後頭部で見る。

終末の花園は白い花びらを舞わせて、
水琴窟が静かに歌う。
封鎖の日まで同じ情景を繰り返し、
ゼンマイは二度と巻かれることはない。
永久機関のレプリカが彩度の低い命を繋いでいる。

リタルダンド。
眠りに落ちる前の平たい空白。

アストラルから戻った先のドアには
知らないノブが付いている。

開けばそこは美しい道の上。
私は必ず辿り着こう。
その先の地を語る謡い手になりましょう。
いつかどこかの舞台でまた。
それではしばしごきげんよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?