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はじめての方むけに。これまで私的によく読まれたnoteをまとめています。
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#エッセイ

広口のガラス花瓶に花をかざる夢

最近よく、花束を買う。花屋さんの立派なものではなく、スーパーのレジ横でぽつんと佇んでいる小さな花束だ。 そして私は、広口のガラス花瓶に買ってきた花をかざる。ピンクや黄色で明るくなったダイニングをまじまじと見る。 口が広くて洗いやすい花瓶を、36歳の誕生日に買った。手に入れるのに、7年近くかかった。何の変哲もない花瓶。なんで普通の花瓶を買うのに、赤ちゃんが小学校に上がるほどの年月を待ったのか。今日はそんな他愛もない話を、ちょっとだけしよう。 *** 7年前、私は妊娠を機

カリフォルニアの青もしくはベーグルの記憶

「ベーグルってバターいれないの。知ってる?」 そんな会話を10何年か前に、隣にいた誰かとした気がする。 はじめてベーグルを口にしたのは、カリフォルニアのサンフランシスコだった。リュックサックを担いでいったスーパーで、袋入りのそれを買った。 がらんとしたアパートのキッチンで、横にナイフを入れそいつを半分にし、トースターで焦げ目をつけて、カロリーの概念を無視してクリームチーズとブルーベリージャムをたっぷりとぬると、カリカリともちもちの食感で天国にいけた。 それから日本でも

ジブリ映画を観ている娘を見るのが楽しい

先月から、Netflixでジブリ作品が順次公開されている。ニュージーランドに住む私は、娘とジブリを堪能する絶好のチャンスだ。 「となりのトトロ」からはじまり、「魔女の宅急便」「天空の城ラピュタ」。この辺りは6歳の娘でも楽しめる定番で、とてもよい反応を見せてくれた。 「もののけ姫」と「千と千尋の神隠し」は13歳以上の年齢指定になっている。ためしに、「千と千尋の神隠し」を一緒に観てみたけれど、千が湯屋で働いてカオナシが出てくるあたりで娘は明らかに飽きていた。ストーリーの複雑さ

文章にまぐれあたりはないから

「どうして、できるのにやらないの」 いつもは温厚な先輩の声が、あきらかに張っていた。スチール机を挟んで座る私の足元の、つま先がこすれたパンプスが見える。夕方6時。もう帰りたいなと思ったときに呼び出された会議スペース。 先輩が言ってるのは、新入社員研修での私の行動のことだ。1か月で新規案件100万円分を受注すること。けして実現不可能な研修ではない。営業部隊なら、きっとどの会社でもある。 「足りない」を見透かされている。 今日の電話リストを思い浮かべた。アポがとれたのは2

私のnoteを読まないあなたに、結婚10年目だから手紙を書こうか

11月に、結婚して丸10年になる。 夫と入籍したのは、2009年の11月大安吉日。翌年から海外移住を決めていた私たちは、有給をとって平日の市役所に婚姻届けをだした。その足で東京タワーに向かい、ラグビーワールドカップのためのイベントに参加したのを覚えている。 東京タワーの足元に、大きなラグビーボールの形をしたドームが設置されていた。中は360度スクリーンになっていて、ニュージーランドの空と大自然が映し出される。芝生の緑を想像しながら、ああ、ここで一緒に暮らすんだなあと、隣の

ひとが文章を書き始めるとき

ちょっと盛大なタイトルになっているけど、文章論とかではなく、我が家の5歳11か月の娘が文章をかきはじめたぞ、というはなしです。 たびたび書いていることだけど、私たち家族はニュージーランドに住んでいる。この国は5歳から小学校に入学できる。「できる」と書いたのは、5歳から6歳の間に学校に通い出せばいいという仕組みだからだ。「いつ」入学するかの意思決定は、各家庭にゆだねられている。 娘は昨年9月に小学校に入学した。気づけばもう1年近く。 日本で義務教育を終えた私は、この国の5

子どもが正しく間違えている

娘が、マジックに興味を持ちはじめた。 きっかけは、学童で見たマジックショー。それからというもの、鉛筆を手にくっつけて浮かせようとしたり、手のひらのコインを動かそうとしたり忙しそう。 夫が片方の手で見えないように鉛筆を押さえ、手を開いても落ちないマジックの種明かしをしたら、娘は「インチキだ!これはリアルマジックじゃない!」と怒っていた。 それをみて、ああ、娘は「正しく間違えている」のだなと思った。 * あたかも自分の言葉のように書いたけれど、「子どもは正しく間違える」

デジタルネイティブ世代の貯金箱と、5歳児のお小遣いルール

我が家には、黄色いゾウがいる。 置物ではない。これは、5歳10か月の娘の貯金箱だ。 振るとチャリチャリーンとお金の音を響かせるかわりに、「パオオーン」と鳴く。そして、胸の部分に「貯金額」があらわれる。 この数字は、娘の銀行口座と連携している。表示されているのは、銀行口座の金額だ。モバイルバンキングで、お金のやりとりができる貯金箱なのである。 これを見たとき、デジタルネイティブ世代は貯金箱までも「電子」なのかと衝撃をうけた。使ってみると大変便利な代物なので、せっかくだか

10年目のパスポート

「16 NOV 2019」 真新しい紙に印字された数字をなぞって、はたしてこんな年が本当にくるのかと不思議に思った。 2009年11月。仕事を無理やり切り上げて、新宿のパスポートセンターに駆け込んだあの日。 受け取ったパスポートの、新しい苗字を見つめる。これは、この先の旅に必要な切符だ。年が明けたら、夫となった彼と二人でニュージーランドに行く。旅行ではなく、住むために。永住権を目指して。 もしかしたらこれは、片道切符かもしれない。永住権がとれなくて帰ってきても、日本に

それでもまだ、打席に立っている

「人生って、25歳までに決まると思うんだよね」 赤いシャンディガフを片手に、渋谷のおしゃれカフェで久しぶりに会った友人に私は語りかけていた。いまから13年前。私はちゃんとお化粧をして、美容院に行ったばかりの髪型も決まってる。 いまだったら、私はなにを語るんだろう。 たぶん、久々の夜の空気にテンションが上がって、子どもがいない開放感で「たのしーねー」と浮かれると思う。笑って、「また会おうね」って、どうしてもハグして別れてしまうと思う。 あの頃思い描いていた、スマートな3

疲れているときは、やさしくしてね

きのう、こんな記事を書いた。 さいきん、娘がイヤイヤばかり言っている、というものだ。ここ数日は、私の発する言葉にかぶせ気味で「いや!」「No!」が飛んでくる。 反抗期なのかな。私がいろいろと言いすぎなのだろうか。頭のなかでぐるぐる考えていたら、ハネサエ.さんから優しいコメントがついた。 ハネサエ.さんは、三人のお子さんをお持ちのお母さんでライターさん。彼女が書く文章はいつも愛がある(そして、子育ての臨場感満載でハラハラする) 娘ちゃん新学期で疲れているんだと思います。