見出し画像

盾より戟より人の存在『盾持人埴輪の世界』の埴輪目撃談

第1章 形象埴輪のなかの盾持人埴輪

センターの島には

画像1

瓦塚古墳出土の形象埴輪群。

これだけで11体はすごいが、盾持ち人がいない… いや離れたところにちゃんといるのだが。直置きの島置きは反射なし角度自由で撮りやすいので、ここにいてほしかった。

代わりに盾形埴輪

画像2

の斜め裏。

円筒をちょっとつぶして盾にしてるかな?
盾に紋様なし、円筒に突帯なし。高さ54cmと50cm。

第2章 盾持人埴輪の出現

いよいよ盾持ち人埴輪。

画像3

左3体は保渡田八幡塚古墳出土(左端103.4cm)、右端は保渡田Ⅶ遺跡出土
どちらも群馬県高崎市

かぶりもののバリエーションと表情が豊かなチーム。
そのなかでも、気になったのが右端、まず小さく細い。といっても高さは68cmあるので、相対的に小さく見えるだけか。
サイズ以上に顔。

眉毛。

画像4

上下に二つある?

それとも上端と下端が強調された太い眉なのか?
困り顔なのがまた何とも。

画像5

群馬県高崎市の太子塚古墳出土の3体

顔、彩色、二股のかぶりもの、前面に貼り付けられた戟(げき)が立体的なところなど、よく似ているが、よく見るとちょっとずつ違う。

例えば中央の埴輪(高さ90.4cm)は

画像6

赤彩が垂れている。

ところで、戟(げき)とは?
刃が上と横にのびるトの字形の武器。刃が上にのびる矛(ほこ)と、横にのびる戈(か)を組み合わせたようなもの。というのが、以前実物を見た私の解釈。

句兵(くへい、こうへい)と同一視されることがある。

さて埼玉県に入る。

第3章 集え!埼玉の盾持人埴輪

画像7

おくま山古墳出土の5体

明らかに違う右端はもちろん気になるが、むりやり置いておいて、左4体。

画像8

円筒から盾に粘土紐を伸ばすだけでは足りないのか、あごひげを盾にくっつけている。補強になる?
それもすごい技だが、そうなると中央の1体(高さ70.3cm)が気になる。

なぜ彼のあごひげだけが

画像9

盾にくっついていないのか。

もっとも、普通に作ったらこうなると思うが。これを最初に作ったのか。
いや、あごひげにリアリティを出そうと思ったら、喉に張りつかせるのはおかしいか。アゴからひげを自然に垂らそうとしたら、盾にぶつかった?

ちなみに、盾持ち人でもそうでなくても、ひげあり埴輪はめずらしい。

画像10

左3体は女塚(めづか)1号墳出土、右1体は三杢山(さんもくやま)8号墳出土

盾持ち人でミズラありは少数派。女塚1号墳のうち2体は下げミズラ。
下げミズラは貴人が結うものという説は苦しい、というかもう古いのでは?

しかしそれよりも注目は、女塚1号墳の中央の彼(高さ70cm)。

ミズラはないが

画像11

頭上に香炉のような物体。

こんな面倒なものをわざわざ作るからには、モデルがあったと思う。

粘土板を放射状に並べるという作りは

画像12

パイナップルっぽい群馬の保渡田八幡塚古墳出土の彼の頭との共通点。

内向きと外向きという違いはなにを示しているのか。
髪なのか、かぶりものなのか。

頭部といえば、水平な棒もしくはV字状の棒を載せたものが多い。
本展では「笄(こうがい)状の髻(もとどり)」とされている。

しかし十条出土の彼の場合

画像13

中空よ?

粘土だから、乾燥させるための手法かもしれないが。
それでも、髪だとすると頭が長すぎる。

手前の権現坂埴輪製作遺跡第1号粘土採掘坑出土(高さ74.3cm)のワシ鼻も気になる。

ちなみに彼の戟は立派でわかりやすい。

画像18

彼の戟より鼻より気になるのは

画像14

帯刀1号墳出土のアゴ。

第4章 盾持人埴輪と埼玉古墳群

画像15

残りがいちばん良いのが

画像16

瓦塚古墳出土。高さ85.4cm。

いい顔だ。図録には「茫洋とした表情」とあったが、それは受け取る側の問題だ。それと見る角度か。
中央の島の一番前に展示してほしかったな。

顔が大きくかけているが

画像17

首が長い稲荷山古墳出土。

図録によると、盾の裏に突帯があるらしい。

本展出演の埴輪は、かけらを別にしても、50体近くと十分な数で満足。しかも撮影可でありがたい。

どの埴輪も盾より人に目が行ってしまった。眉・髭・頭・鼻・顎・首…

盾について少し。板状の盾は円筒にくっつけるのに苦労している。ヒレ状になっていくのは自然か。紋様はダントツで鋸歯紋が多かったが、無紋も少なくない。あの広いキャンバスに何も描かないなんて。

古墳時代の盾はたいてい大型の置き盾だったらしい。

画像19

それでも盾の上から顔を出すのはなぜか。

「盾より人に目が行く」というのが盾持ち人埴輪を作った理由の一つかもしれない。守りを固めるにはモノだけでは甘い、人の存在が必要だ、ということかもしれない。

図録入手。実質64ページ、ほぼ全ページカラー、700円。
すばらしい。特に写真がすばらしい。一体につき複数の写真を載せている。正面・右から・左から・背面、など。なかなかここまでできない。展示なしの埴輪も写真はいいものが載っている。最古の盾持ち人埴輪といわれている奈良県桜井市の茅原大墓古墳出土例、眉庇付冑(まびさしつきかぶと)をかぶる鹿児島県大崎町の神領10号墳出土例、はにぽんのモデルを含む埼玉県本庄市の前の山古墳出土例3体など。

この展示は行きたい行きたいと思っていたので、ようやく行けて満足。

2020年10月24日訪問

***

フタ付きの飲み物のみ、館内で飲める場所あり。

***

『企画展2020 盾持人埴輪の世界』

会期:令和2年9月12日(土曜日)~令和2年11月23日(月曜日・祝)
会場:埼玉県立さきたま史跡の博物館 企画展示室 

***

埴輪を上から下から後ろから。さきたま史跡の博物館の館蔵資料3次元モデル公開、第一弾。

***

その後、こちらも見てきました。

『鉄砲山古墳 -発掘調査の成果-』
会期:令和2年9月8日(火)~令和2年11月29日(日)
会場:埼玉県立さきたま史跡の博物館 国宝展示室

展示と古墳のレポートあり。よろしかったらどうぞ。


お読みいただきありがとうございます。サポートいただきましたら、埴輪活動に役立てたいと思います。