川、時には運河を行く

第9位 ベネツィアのゴンドラ遊び(イタリア)

水の都ベネツィアに車は走っていない。ヴァポレットという市民と観光客の足になっている水上バスがグランカナルのメインの運河や島と島を繋いでいる。この幹線を軸に大小さまざまな船が行き交っている。当たり前だが、パトロール、救急、消防などあらゆる公共の乗り物がすべてボートだ。乗り物マニアは玩具屋を一生懸命探してパトロールボートや救急ボートのミニチュアやオモチャを買ってゆくという珍しい場所だ。

そんな風景の中にゴンドラはある。ゴンドラを手繰るゴンドリエの力が発揮されるのは177の細かく狭い運河だ。元々は10人乗りほどの大きなものだったらしいが現在のものはせいぜい5人までの小ぶりなものだ。そのゴンドラが幅の狭い運河を壁やすれ違う船と一切触れることなく滑るように行き交う。この辺のテクニックが彼等の誇りなのであろう。客が「ぶつかる、ぶつかる」と言っては全く接触もなく通り過ぎるとそのテクニックを湛える拍手が俄に起こる。ゴンドリエの顔を見上げれば誇らしげにウィンクが帰ってくるという調子だ。

 映画007シリーズの「ロシアより愛をこめて」のラストシーンでゴンドラを初めて知った。以来、ベネツィアに行ったら何としてもゴンドラに乗ろうと勇んだ。しかし、ガイドは、「ゴンドラは映画のように昼間乗るのではなく、夜にお薦めします」と言うので彼の言に従って夜に乗った。確かに、昼間とは比べ物にならないほどのゴンドラが運河を行き交っている。近くで、遠くでアコーディオンとペアを組んだカンターレが歌うカンツォーネが狭い路地裏ならぬ運河裏から聞こえてくる。月と窓辺の明かりが運河に揺れて旅情をかき立てる・・・あまりきれいとは言えない水を夜はロマンチックな風情に変えてくれるから、ここはやはり夜の舟遊びと洒落て欲しい。

ゴンドラについて塩野七生氏が著書「イタリア遺聞」の第一話でこんな風に記しているので一部を紹介する。

「・・・べネツィアといえばゴンドラ、ゴンドラと言えば黒とまるで連想ゲームのようだけれど、ゴンドラと黒は切り離せないのだと、今では誰もが思って疑わない。たしかに、黒一色のしなやかな小舟は美しい。華麗な色彩の洪水の上に薄いヴェールをかけたようなヴァネツィアの街並みを背景にすると、黒いゴンドラは、色彩感覚の極致に達した選択だという気がしてくる。つまり、風景をしめてくれるのである。・・・」氏はまた、この話の最後でこんなことも言っている。「・・・ゲーテは、ゴンドリエの歌うタッソーの詩を聴き、「涙がでるほど感動」できたけれど、われわれは、戦後のアメリカ人観光客の悪趣味のおかげで、ベネツィアにいながらナポリ民謡を聴かされ、涙も引っ込むほどしらけることである。」と・・・塩野氏らしい言い方だが、そこまで目の仇にしなくてもと思うが、いかが・・・しかし、この本はなかなか薀蓄とエスプリが効いていてお薦めの一冊だ。

(写真2枚・・・ベネツィアのゴンドラ風景・・・Wikimedeaより)

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ところで、今日のエピローグになるが、昨日の新聞やテレビのニュースでご存じの方が多いと思う。10月31日に<s
pan lang="EN-US">007シリーズ初代のジェームズ・ボンド役のショーン・コネリーの訃報が伝えられた。享年90才とのこと・・・

前出の「ロシアより愛をこめて」以来、ショーン・コネリーの大ファンだった。名優の死に慎んで哀悼の意を捧げたい。


以下にマット・モンローが歌う”ロシアより愛をこめて”のYOU TUBEを張り付けましたので
クリックしてお聞き下さい

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