歌でも歌いたいところなんだけど
歌でも
歌いたい
ところなんだけど
窓にもたれて
夜が更けていくのに
まかせて
口笛を吹いてみる
心の中で
ずっと
風が吹いているから
口をすぼめて
息を
優しく
涙が出てくるね
×
さびしさは
果物の内側にある
それを探し当てたくて
わたしはナイフを入れる
甘い果肉も
したたる汁も
いらない
たった一個の
泣きたくなるような
種子が
真ん中に
確実に
あればいい
皮を剥けば
涙が流れる
×
あきらめることに
慣れてしまって
泣いてみたところで
何も見つからなくて
それでも
あきらめない
気持ちだけは
持っていたい
それだけは
あきらめたくない
×
忘れられない
声の感じや
覚えているままの
言葉や
あなたの笑顔や
しぐさがあって
ときには
とても
寂しくなる
そんな
風の吹く
胸のあたりから
夕やけがはじまる
×
袋に
入れられて
土に
埋めら
れていた
土が
掘られて
袋ごと
運ばれていく
「中間」
とは
何と
何の
間なのか
×
電車の
ドアが開いて
無人の駅の
近くの家に
つながれた
犬の鳴き声が
聞こえてきて
扉は閉まって
列車は駆けていく
あんなふうに
叫んでいる
自分を
残酷に
残して
×
生きている
自分が
みじめだから
生まれ変わる前の
わたしに
話しかけてみる
どんなふうに
変わりたいと
思っていたのか
風で木が倒れていた
朝の夢のはなし
×
わたしを
すこし
許すような
気持ちで
新しい
豆を挽いて
ゆっくり
コーヒーを
淹れよう
×
今日も
あなたは
頑張っています
よく
知っています
あなたは
わたしの
希望です
どんなに
悲しみが
深くても
あなたには
やっぱり
笑っていて
欲しい
あなたこそが
わたしの
明日だと
想うから
×
夜更けの
家明かり
四階建て
アパートの
ベランダで
星を眺めている人
それは私です
誰もいない通りを
息を切らせて
走っている人
携帯電話で
恋人と話して
涙ぐんでいる人
階段の
電気を消した人
誰もが
私です
列車の窓から
ずっと
眺めている私です
×
許すとか
許さないとか
そのような
問題じゃない
あなたと
生きている
それだけで
全てが
許されてくる
そうなるといい
そうなるといい
×
こんなにも
想っています
そのことを
伝えたいと
想うだけで
「想う」
という
言葉が
わたしの
真ん中で
行列を
作っている
とても
すごい
長さです
×
あなたの夢を
わたしは知りたい
あなたの望みを
わたしは知りたい
あなたの幸福を
わたしは知りたい
あなたの未来を
わたしは知りたい
あなたの道を
わたしはたずねたい
一緒に
歩いていきたい
あなたの涙を
わたしは流したい
あなたの怒りを
わたしは受けとめたい
誰と
あなたと
×
風も
雲も
川も
木も
新聞も
コーヒーも
昨日届いた手紙も
買ってきて読みかけているヘミングウェイの短編集も
聞き古しているマイルスデイビスのLPも
きみが暮らしている街も
福島も
世界も
この
タイムラインも
ぜんぶ
きみだ
きみの今だ
だから
自分に
嘘を
ついちゃいけない
×
コップ
一杯の水に
あなたのこと
心のぬくもりを
想う
涙ぐましくなる
わたしは
怒ったような顔をして
ただ
見つめている
それは黙ったままだ
ああ 雨は
さっきから
心 いっぱいに
降っている
だから
飲み干す
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