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ノマドランドニッポン

暖冬の予報通り年末に少しばかりの雪が降って以来年が明けても積もった雪の量は少ない
年末年始も穏やかな陽気で太陽は確かに真冬の高さなのに空気は春を感じさせるかのようで不思議に感じた
午後4時までは平和な元旦だった
ちょうど外に出ていた私の足元がゆっくり揺れ始めた
横揺れが長く続いた
風もないのに高い樹木の梢も動いていた
携帯がけたたましく鳴り始めた
ラジオをつけると地震の報道が早くも始まっていた
全てが一変した
なんとも重苦しい正月となってしまった

翌日には恒例の年始の挨拶に故郷に帰った
幸い被害もなく高速道路が途中から通行止めになっていた程度で安堵した
同じ時間にこことは別の場所では悲劇が現在進行形で続いているのに私が車を走らせている場所からは平和な景色しか見えない
サービスエリアに立ち寄れば食事の風景があり
鳥居の前を通り過ぎれば初詣の人達が歩いていた
マスクのない久しぶりの正月
一寸先にはどんな未来が自分の身に起こるかなど誰も予想できない
不確かな世界に生き続けて確かなものっていったいなんだろうか

初滑りに行ってきた
予想通りゲレンデの雪は例年のこの時期にしては少なく不十分ではあるがまずまず滑走できる状態だった
それでも山頂から自由に滑り降りる時の身体が解放されたような感覚はこの歳になっても変わらない
そこがスキーやスノーボードの大きな魅力だ
1時間ほど滑っていつもの場所で休憩する
ゴンドラリフト乗り場とカフェレストラン棟を結ぶ中二階の連絡通路

ガラス張りで外のゲレンデがよく見える
通路の両側には木のベンチが並んでいる
ブーツを脱いで脚を伸ばしリラックスする
この通路を通る人はあまりいない
ゲレンデ食堂へは外から直接入れるからだ
静かで落ち着くお気に入りの場所
デイパックからコンビニで買ったサンドイッチとお茶を出す
ガラス越しに差す冬の日差しは暖かく身体がすぐに温まる

かれこれ40年近く前のこと
まだ雪の積もっていない12月1日
私は長い旅を終えた後この場所に来た
ウィンターシーズンのあいだこのスキー場で働くためだ
アパートを引き払い都会生活に終止符を打った
北国の遅い春が来るまでの寮生活
いろいろな場所からさまざまな年齢の仲間達が集まってきた
二段ベッドが並ぶ狭い部屋で生活を共にし
朝夕は食堂でご飯を共に食べた
酒を飲み一緒に笑い時につまらない喧嘩もした
休みの日は夢中になってスキーに打ち込んだ
そして雪が溶けると仲間たちは再びそれぞれの場所に去って行った
都会に戻って就職する人
故郷に帰る人
山小屋で働く人
再び旅に出る人
笑顔に寂しさを忍ばせ
『また来年会おうな』
『そーだね』

ガラスの向こう側
そこにはあの寮が確かにあったんだ
映画ノマドランドと同じ世界がここにあった
そして今も未来もこの白馬にあり続ける

さあブーツを履いてもう少し滑ろう

#ノマドランド #スキー場 #寮生活  #人生のターニングポイント #白馬

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