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山に登る舟(4)- 山のアイドルに会う -

 青空に白い雲が浮かんでいる。山が私はすずめやさんと南アルプスの駒ヶ岳の山頂に立っていた。目の前には雑誌の表紙のような絶景が広がっていた。
 ロープウェイであっとう間に(実際には7分30秒で)ワープしてきたせいか実感がないがここは地上から2,612mの場所である。平日だというのに老若男女(老多め)の人々でにぎわっていた。まだ馴染んでいない登山靴で「山は怖い、油断してはならぬぞ」と一歩一歩踏みしめながら尾根を歩き始めた。歩き始めて気づいたのだが、山を歩くというものは、歩くに加えて岩を越えるという動きもでてくる。普段の生活の中では現れない岩をよっこいしょと割と頑張って越えなければならない。岩を超えてやれやれと思っていると後ろから推定八〇代の小柄なおばあちゃんがその岩を越えてやってきた。どうやってあの岩を越えたのだろうかととても疑問に思ったが、山歩きに慣れた人にはその岩にも「道」を見出して進むことができるのであろう。私もウッカリ長生きをしてしまったら、このおばあちゃんのように大きな岩をもひょいひょいと越えるくらいの脚力を持つぞと心に刻んだ。
 ゴツゴツの岩道にも慣れてきた頃、私はその子に遭遇した。それはアルプスのアイドル、雷鳥である。山に疎い私も以前から雷鳥の存在は知っていた。冬毛が白くてかわいいということも、銘菓雷鳥の里に付いている型抜きされた雷鳥のイラストを押入れに貼っておくと地震避けになるという迷信のことも。
 茶色い夏毛の雷鳥は手の届かない岩にとまって鳴いていた。その鳴き声を聞こうと耳をそば立てていると、きゃいきゃいわいわいとした団体がやってきてしまった。そう、ここは大自然の中の観光地である。人の手が加わって人が楽しめる為に整備された地なのである。悲しいかな私もその観光客の一人なのである。

(つづく)

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2022年の雲ノ平山荘主催のアーティスト・イン・レジデンス企画に参加し、人形アニメーション「MRAK -ちいさな植物学者ムラックの雲ノ平の旅-」を制作いたしました。
4月22日~7月10日期間、東京と山梨合計3箇所にて作品の展覧会が開催されます。展示会会場にて映像の全編と使用した人形などの展示をいたします。
ご来場お待ちしています。


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