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恋人ごっこ

「ねえ、いま何時?」

そう言って、彼女は眠そうにベッドの上で寝返りを打ちながら話しかける。
「んー、まだ7時だよ」
他人のベッドで寝るのはいつぶりだろうか。と思いながらあまり熟睡出来ていないのをいい事にまた俺は寝ようとする。6帖ほどの彼女の部屋のシングルベッドで2人向かい合わせにもう一度寝る。

寝ると言っても俺は目を瞑っているだけで寝ることは出来ず、ただ彼女と抱き合ってこの時間を何倍にも引き延ばしている。彼女は慣れた手つきで、男の自分に対して腕枕をしてくる。「-ん?」違和感と男としてこれでいいのか、という疑問が浮かび続けるが彼女の表情を見た途端深く考えることをやめて今はなすがままに甘えることにする。

彼女曰く、この方が体勢的に楽なのだと言う。

少しのキスとお決まりのようなセックス

彼女の無防備な寝顔を見ていると、離れ難いものだと思えておもわず髪を撫でる。

午前10時

「お腹すいたね」

スマホでUberEATSを手慣れたようにして彼女が頼んでいる。2人でベッドから降りてフローリングの上に座りスマホの注文画面を覗く。何にしようかと話し合い食べ物やどれぐらいお腹が空いてるかを確認し、たこ焼きを注文した。

届くまで20分ほどかかるようで、その間は2人で本当に他愛もないことをした。距離は恋人のその距離だ。変顔をし合ったり、1番盛れている写真なんかも見せ合っている。

部屋にはテレビが無いため2人の会話以外は、外からの電車が通る音や鳥の鳴く声だけが聞こえる。本来テレビがあるべき所には参考書や、マンガ、そして勲章とも言えるであろう大量の日本酒の空瓶が堂々と主張強めに並べられている。冷蔵庫のドア一面には日本酒のステッカーが敷き詰めて貼られている。

彼女の酒豪っぷりはどうやら地元が関係しているらしい。飲みっぷりではとても敵わない相手。

20分後にUberEATSが届き、たこ焼きを2人で頬張っていく。「はーい」少しだけ笑いながら熱いことをいい事にたこ焼きを掴んだお箸を俺の方に運んでくる。ん…食べるしかない、と覚悟を決めながら頬張ってみる。
んっ?!あっつい!
舌が火傷した。
「はっっふ!ハフハフっ…」

なんとか食べ終えた…美味しかったがそれどころではなかった。

午前11時

「そろそろ帰るね」

口うるさい良い親を思い出し、帰ることにする。外は天気も良く昼前の明るさはとても眩しかった。荷物をまとめて、帰ってからのことを考える。
帰らない選択肢もあるが、俺は帰ることにした。

「またね」

前編終了

やおと(8010)





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