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そして3秒ルールは撤廃され、僕らは平熱を知る

常軌を逸した変な人

刑事コロンボを見ていた時だ。コロンボが犯人と二人してレストランに入ろうとしているシーンを見て「いや、マスクせな」と頭に浮かんだ。今から50年も前の、しかもアメリカの、しかもドラマのシーンに、だ。いつからこんなことになってしまったのか。

街中でマスクをしていない人を見つけると「この人はきっと変な人なんだろう」と思うようになってしまった。いや、2021年6月現在、人混みの中でマスクをしていない人はご多分にもれず「変な人」で違いない。

マスクをしていない写真を撮る時には「※写真撮影のためマスクをはずしています」とか「※これは2019年以前の写真です」とか書かなければならず、書いていなければ「一般常識を疑います」と言われるのだから、やっぱりマスクをしていないことは「一般的に考えて常軌を逸した変なこと」で、マスクをしていない人は「一般的に考えて常軌を逸した変な人」なのだろう。

「コロナは陰謀であり、マスクをする義務はない」と言い切る少数の人からみればマスクを付けないことは常軌を逸した行動でもなんでもないのだから、マスクを付けろと言われても「意地でもつけない」と言う。実際にそう言って電車から降ろされたり、飛行機から降ろされたりする人もいる。

ふと思うのだが、そんなコロナ陰謀論を唱えて意地でもマスクをしない人でも、街中でパンツを頭からかぶって歩いている人には何と言うだろうか。

「パンツは頭からかぶるものであって、おしゃれの一つとして楽しんでいるのだ」と言い切る少数の人からみれば、パンツをかぶって歩くことは常軌を逸した行動でもなんでもないのだから、パンツをとれと言われても「意地でもとらない」と言うだろう。

そんな人に意地でもマスクをしない人たちは何と言うのだろうか。「意地でもマスクをしない人」vs「意地でもパンツをとらない人」。俺は正しい、お前がおかしい。いいや、俺が正しい、お前がおかしい。激熱の戦いじゃないか。

そして3秒ルールは撤廃される

最近しなくなったことのひとつに「3秒ルール」がある。床に落とした食べ物を「3秒ルール」と言いながらすぐに拾って食べる謎のルールだ。もちろん、落とした床(というより場所)によって「3秒ルール」が適用されたりされなかったり様々だったが、自分の家の床とかだと案外簡単に拾って食べたりしていた。

しかし、コロナ禍になってからというもの「3秒ルール」は絶対にしなくなった。ただでさえこれでもかと手洗い、消毒をしてご飯を食べているというのに床に転がった物を食べる気が知れない。今まで風邪をひいたり、急にお腹が痛くなったりしていたのは「3秒ルール」が原因だったのではないかと思う。まさに「常軌を逸した変なこと」のひとつだった。

ただ、この「3秒ルールの撤廃」は小さいようでとてつもなく大きな変化だった。例えば買ってきたカップ麺にお湯を入れて待つ間、箸をカップ麺のふたに直に置くことに躊躇するようになったし、タバコのフィルターを指でつまんで箱から引っ張り出すのも何か嫌になった。3秒ルールが撤廃されたのだから、あれもこれもマズイんじゃないかと思うようになってしまったのだ。

そうなると、次は何が嫌になるんだろうかと想像して怖くなる。今はまだ自販機で買ったジュースに口を付けて飲むことは平気だが、そのうち飲み口をアルコールで除菌してからでないと飲むのが嫌になるかもしれない。今はまだバスや電車に乗ることは平気だが、そのうちどこかへ出かけるのも嫌になるかもしれない。そうして家から一歩も出ることがなくなり、生きることすら怖くなるのかもしれない。なんてことだ。コロナめ、ここまで怖い気持ちにさせる病だったとは。

そんなことを考えながら、マスクをしてバスに乗り今日も仕事に行く。毎朝の検温にも慣れた。コロナ禍の前は35.9℃が平熱だと思い込んでいたけれど、ここ1年の平均をとると僕の平熱は36.3℃が正しいようだ。知らなくていいよ、そんなこと。知らなくてよかったよ、そんなこと。




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