とある者の手記 三頁目

死とは美しいものだ。
一人の人間の生命が全うされる瞬間。この世にあった生命の灯火が消え、何の価値もない骸になる瞬間。不可逆的な状態変化。
どれほど能力があったとしても、どれほどの価値を秘めていても、死せば全て等しく地に還る。もう二度と動くことも、息をすることもない。
遺った人間たちはその者の魂を鎮めるかのように、屍を飾り付け、霊魂への祈りを捧げ、丁重に弔う。まるで何者かに操られているかのように、当然すべきことだとでも言うかのように、死を偲ぶ。
屍は何も言葉を発さないのに?魂など存在しないというのに?
屍を飾るのは彼らのエゴではないのか?祈りを捧げるのはただの自己満足なのではないか?その弔いの儀式は自分たちに死の事実を認識させるための暗示に過ぎないのではないか?

私は。誰も知らない場所で密かに死を遂げたい。
私は。誰にも飾られず、腐り果てたい。
私は。誰からも忘れられたい。

誰かの記憶に残ってはいけない。誰かに触れられてもいけない。
私は、孤独に生涯を閉じたいのだ。
私が存在していた事実も。今までの悪行も全て。
初めから、なかったことにしたいのだ。
そうして出来上がる完全な死は、私をどこまでも魅了させる。

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