「ピボット・ピラミッド」という考え方―、何を変えて、何を変えないのか

スタートアップのピボットの内容やその影響を理解して整理するのに良いなと思った記事です。


「ピボット・ピラミッド」とは
・プロダクトのピボットでスタートアップが変えるものを以下の5つに絞り、
1.ターゲット顧客
2.課題
3.解決方法
4.テクノロジー
5.グロース戦略
・これらには上下の階層構造のようなものがあるとするのが「ピボット・ピラミッド」
・提唱者は動画によるグループチャットアプリ「Bunch」のCEOである、Selcuk Atliさんです。以前に500 Startupsのベンチャー・パートナーを務めていたほか、M&AされたスタートアップのBoostableの共同創業者であります。

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下を変えると、その上にあるものもガラガラと崩れ落ちる
ピボットする対象には階層があり、下を変えると、その上に載っているもの全体がガラガラと崩れ落ちて、結局全てを変えなくてはいけなくなる

主に海外スタートアップのピボット成功事例
1.ターゲット顧客(事例:Twitch、Akerun)
誰の課題を解決するのかということです。
日本のスタートアップエコシステムでは、「軸足を変えず」というピボットの原義から離れて、まるっきり違う事業に取り組むピボットも少なくありません。そうした事業ドメイン自体の変更を、ピボット同様にバスケットボールのアナロジーから「トラベリング」と呼ぶこともあるようですが、それも顧客を変えるということになるかもしれません。

ゲーム実況配信プラットフォームのTwitch
ーもともとは単に日常を垂れ流す配信サービスとしてスタートし、後にゲーマーたちの熱量が高いことに気づいて、専用プラットフォームとして切り出し、それがAmazonに96億ドル(1,000億円以上)で買収されるという大成功を収めました。

スマートロックのAkerun
ー当初はテクノロジー好きのアーリーアダプターの個人利用者をターゲットしていたものを、シェアリングエコノミーの台頭に合わせてB2Bの入退室管理ソリューションとしてピボットして業績を伸ばしている、という例もあります。

2.課題(事例:Android、PayPal)
特定の事業領域でプロダクトをローンチして、ユーザーヒアリングをしたり、利用動向を見ていたら、実は当初課題だと思っていたことが、それほど大きな課題ではなく、むしろ課題は別のところにあったと分かることは良くあります。この場合ターゲット顧客は変えずに、取り組む課題を変えるのは有効

Android
ー創業当初はカメラ端末向けOSとして開発され、2004年時点での投資家向けピッチでも、そのように言っていました。しかし、カメラ市場に十分な大きさがないことから、汎用の携帯電話OSにピボット。1端末あたりのライセンス料が数千円から1万円近かった競合のSymbian OSやWindows Mobileに対して、無料のオープンソースという新しいモデルでシェアを奪っていき、今やGoogle傘下で世界のスマホOSの86%のシェアを占めるにいたるほどの大成功を収めています。

PayPal
ーもともとモバイル端末(当時はPalmPilot)向けのセキュリティーソフトを作っていたものの市場性がなく、ちょうどeBayで決済が盛んに始まっていたことからモバイル端末上のウォレットにピボットしたという歴史があります。

3.解決方法
顧客や課題は大きく変えずに、解決方法だけを変えるというピボットもあります。プロダクトのダウンロードや導入が思うほど進まなかったり、顧客獲得の速度が十分でないなど理由はさまざまです。

Facebook傘下のInstagram
ー2010年のローンチ当初は「Burbn」という名前のロケーション系サービスでした。当時はFoursquareを代表とするロケーション共有のサービスが流行していたのですが、強豪が多い上に利用者数が伸びないことからピボット。UIをシンプルに写真の加工・共有だけに振り切ったことでユーザー数が急増。2012年にFacebookに10億ドル(約1,000億円)で買収されたのでした。

Picwing
ー初期Y Combinatorに参加していたスタートアップで、WiFiベースのフォトフレームサービスを作っていました。私は2011年にPicwing創業者のEdward Kim氏にインタビューして記事を書いたことがあるのですが、ピボットのきっかけはフォトフレームをガレージで自作していたときに誤ってドリルで腕に穴を開けてしまったこと。もともと上手く行っていないことに気づいていたKim氏は救急車で運ばれる中で限界を悟って、郵送で写真を定期送付するサービスにピボット。顧客は祖父母に写真を送りたいデジタル世代の親たちでした。やっていることは同じでも、物理デバイスにこだわることなく、解決方法をピボットした事例です。Picwingは後に同業のPicPlumに買収されています。

4.テクノロジー
選択するテクノロジーを変更する意思決定はピボットというよりもエンジニアリング上の行き詰まりから、大胆にテクノロジースタックの一部、もしくは全部を作り直すようなものです。ユーザーが爆発的に増えすぎてしまったために、分散処理に適したプログラミング言語に切り替えるというのは、今のようにクラウドの使い勝手が良くなる以前には良くある事例でした。

Twitter
バックエンドの開発言語をRubyからScalaに変更した事例があります。
Facebook
ー当初からPHPを使って開発をしていますが、主に実行速度の観点から、PHPを高速に実行できるC言語に変換するコンパイラを開発したことで知られています。

5.グロース戦略
グロース施策に関しては、もっとも頻繁にPDCAを回したり、新しい実験をするピボットのレイヤーかもしれません。


初期のDropbox
ーオンライン広告でユーザーが伸びず、今では一般化した紹介キャンペーンを導入したところ爆発的に成長を始めたという事例は有名です。

Airbnb
ー2020年に振り返ってみると、かつて2010年代に「Web 2.0」と呼ばれた北米スタートアップの多くはCraigslistというクラシファイド広告をバーティカルに切り出して使いやすくしたサービスという側面があります。初期のAirbnbは「泊めます・泊めてください」というCraigslist上にあった利用者や市場を奪い取った形です。そのCraigslistに対して自動化したプログラムで潜在顧客にAirbnbへ誘導するメールをばらまいた、とされています。スパム行為に近いやり方が批判もされましたが、ご存じの通り、Aibnbはついに2020年11月にIPOの申請を行いました。想定時価総額は300億ドル(約3兆円)にものぼります。

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