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あなたへの花 #2

どうも、詩奶です。
あなたへの花の第二話ができました。
今回はとある親子のお話です。
すこし長くなっておりますので、お時間があればお読みください。

※誤字脱字あったら、すみません。見つけ次第訂正します……!

登場人物
 
香花(こうか)……とある街にあるお花屋さんの店主。
 
勇汰(ゆうた)……年長組の男の子。
 
菜月(なつき)……勇汰の母。妊婦。30代。
 
芳恵(よしえ)……三峰芳恵(みつみねよしえ)ほのぼの保育園の園長先生。50代後半。
 
和人(かずと)……花屋に勤めるアルバイト店員。大学生。

子ども1……ほのぼの保育園の園児。

子ども2……ほのぼの保育園の園児。

時間配分
30~45分程度

性別配役
男:2(内、子1)
女:3
その他子ども:2(声劇において、どちらも兼役有)
 
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下段より本編。





春。とある広い公園。
 
芳恵 「今日はありがとうね香花ちゃん」
香花 「いえ、偶然お店の点検日だったので」
芳恵 「でもお休みの日にこんなイベントに参加してもらって……」
香花 「本当にいいんです。ね、和人君。」
和人 「は、はい……」
 
回想、花屋にて。保育園イベントをしらせる紙を和人に渡す香花。
 
和人 「保育園の野外イベント?」
香花 「そう、ご贔屓にしてくれてる保育園さんのイベント。来週の土曜日」
和人 「へ~……って、普通に仕事じゃないですか」
香花 「ううん。業者の点検日でお休みなの。イベントは午前中で、業者は午後にくるから、ね?丁度いいでしょ?」
和人 「親子参加型かぁ、土曜日も保育士さんは忙しいなぁ」
香花 「あら、元々保育園は土曜日もやってるのよ?」
和人 「そうなんだ」
香花 「もしかして和人くん、幼稚園出身?」
和人 「ま、まぁ、」
香花 「ならわかんなくて当然か」
和人 「なっ……」
香花 「ふふふ、ごめんごめん、まぁというわけで、よろしくね」
和人 「え、まさか、俺も?」
香花 「そうよ?野草を知るのもお花屋さんとしては大事なことよ?」
 
回想シーン終わり。
 
香花 「というわけなので、本日はよろしくお願いします」
芳恵 「まぁ、抜かりないわねぇ、さすが香花ちゃん」
香花 「ふふ、今日は思う存分楽しみます」
芳恵 「そうしてちょうだいな」
香花 「和人くんも……あれ、和人くん?」
芳恵 「あら、いつのまにあんな遠くの方に」
 
和人 「何入ってんだよこれ……重すぎだろ……」
 
香花 「おーい!かずとくーん!」
芳恵 「こっちよー!」
 
和人 「はぁーい!!よいしょっと……」
 
無事到着する和人。
 
芳恵 「さぁ、着いたわ。いいところでしょ?」
香花 「お日様も当たって、水はけもいい。植物にとってもいいところですね。」
芳恵 「でしょう?数年前からここでイベントを開いてるのよ」
和人 「ふぅい~~~……」
香花 「お疲れ、なんかやつれた?」
和人 「なんですか、あの大荷物、ヤバすぎます……」
香花 「それはね……」
 
芳恵 「香花ちゃーん!こっちで準備しましょう!こっちが良さそうよ!」
 
香花 「はぁい!じゃ、またあとでかな」
和人 「ええええ……」
香花 「まぁまぁ、少し休憩してていいから」
和人 「だったら少しぐらい持ってくれてもいいですけどねっ」
香花 「ごめんね、そんなに重たいなんて思ってもみなかったから」
 
芳恵 「香花ちゃーん!」
 
香花 「はぁい!それじゃあ、ちょっと息抜きして、戻っておいで」
和人 「はぁい。あっ、何か飲みます?買ってきますよ自販機あったら」
香花 「大丈夫。ほらすぐ始まっちゃうから行ってらっしゃい」
和人 「はーい」
 
和人去る。香花、芳恵のところへ向かう。
 
香花 「お待たせしました」
芳恵 「あら、あのアルバイトくんは?」
香花 「ちょっと休憩させてきました」
芳恵 「荷物?結構重たかったかしら?」
香花 「そうみたいです」
芳恵 「無理させちゃったわねぇ、でも弱音吐かないなんて、良いアルバイトくんね」
香花 「はい、いつも頑張ってくれてます」
芳恵 「他の子たちは?」
香花 「今学校の研修があってお休みです」
芳恵 「そう。香樹さんは?」
香花 「海外です。」
芳恵 「あら」
香花 「心配いらないですよ。いつも通りですから」
芳恵 「うふふ、それもそうね。さっ、やっちゃいましょうか」
香花 「そうですね」
 
一方、和人。
 
和人 「あぁぁ、生き返る…………ん?」
 
遠くに親子がいる。
 
菜月 「そんな、むーってしないの」
勇汰 「やーだ」
菜月 「そんなこと言われても、ママ、お仕事があるの……」
勇汰 「やだ!一緒に行くの!」
菜月 「すぐにお迎え来るから……」
 
勇汰 「やーだ!!」
 
和人 「大変そうだな……ん?あれは、園長先生」
 
そこに園長先生がやって来る。
 
芳恵 「あら、勇汰くん、おはよう」
菜月 「園長先生」
芳恵 「どうしたの?何か嫌なことがあったかしら?」
勇汰 「……ママがっ」
菜月 「すみません、勇汰、今日私が急に午前仕事になってしまって、朝からご機嫌が斜めで……」
勇汰 「ママはお仕事行かないの!一緒にこっち来るの!」
菜月 「すみません……本当……」
芳恵 「そっかぁ、ママ、お仕事になっちゃったんだ」
勇汰 「うん……」
芳恵 「でも、勇汰くんがずっとやだーやだーって言ってたら、ママだって、悲しい気持ちになっちゃいますよ?」
勇汰 「え……」
芳恵 「園長先生、勇汰くんが春から年長さんになって、お兄さんになったところみたいなぁ~」
勇汰 「……」
芳恵 「お母さん、ここは任せて」
菜月 「でも」
芳恵 「大丈夫。さぁ、勇汰くん、そうだっ!ママがびっくりするぐらい、色んなもの見つけてみようか!」
勇汰 「いろんなものって?」
芳恵 「例えば、お花でしょ~お花といったらちょうちょもいるし、土を掘ったらミミズさんもいるかも、あっ、あったかくなったらね、ここの公園は……」
 
ひそひそ話をする。
 
勇汰 「もぐら!?」
芳恵 「そうよ、あとは~(目くばせして、菜月を送りだす)」
菜月 「(聞こえないぐらいの声で)お願いします……!」
 
一部始終を見てる和人。
 
和人 「すご……」
 
場面変わって全員が集まっている広場。
 
芳恵 「みなさーん、今日はありがとうございますねぇ。ほのぼの保育園園長の三(みつ)峰(みね)芳(よし)恵(え)といいます。今日はこんなにいい天気になって、今日のお花とか葉っぱとかまつぼっくりとかどんぐりとか、はっ……動物さんもいるかも……?うふふ、いろ~んなものをみつけて帰ってくださいねぇ」
 
子どもたちがは~いと言う。
 
芳恵 「そして今日はなんと……!お花や植物にと~~~っても詳しい園長先生のお友達も一緒です!では紹介しましょう。どうぞ~」
香花 「はい。みなさんおはようございます。私は藤田香花(ふじたこうか)といいます。お花屋さんをしています。今日はみんなと一緒に公園にある色んなお花や植物を見れたらなと思います。わからないお花があったら香花お姉さんにきいてくださいね。それと今日はお花屋さんで一緒に働いてくれている、お兄さんもやってきました。はい」
和人 「あっ、え、えっと!木嶋和人(きじまかずと)っていいます。大学二年生です!こちらのお姉さんよりはお花は詳しくないんですけど、みんなと色んなお花を見られたらうれしいですお願いします!」
芳恵 「それでは、これから一時間、この公園で色んなものを見つけたり~、匂いを嗅いでみたり~、触ってみたりして、楽しんでみましょう!もしわからないことや困ったことがあれば、近くにいる先生や香花お姉さん、和人お兄さんに聞いてください!」
和人 「えっ、俺も?」
芳恵 「それでは、どうぞ~」
 
一斉にスタートする。
 
子ども1 「せんせーこれはー?」
香花 「これはねキュウリグサといいます」
子ども1 「きゅうり?食べれるのー?」
香花 「いいえ」
子ども1 「えっ!じゃあ嘘じゃん!」
香花 「ふふ、嘘のきゅうりですが、葉っぱを指で挟んで、もみもみしてごらん」
こども1 「こう……?」
香花 「そう、そしたら、匂いを嗅いでみましょう」
こども1 「え?……あっ!きゅうりのにおいがするー!」
香花 「ふふふ、キュウリグサは、葉っぱからきゅうりの匂いがするから、その名前がついたんですよ」
こども1 「へーおもしろーい!」
 
こども2 「お兄さんこれなぁにー?」
和人 「えぇと、それはぁ……」
芳恵 「それはホトケノザね。春の七草の一つよ」
こども2 「春の七草?」
芳恵 「そう、春の七草をおかゆに入れて食べると、無病息災、風邪もひかない元気な子になるって言われてるのよ」
こども2 「そうなんだ!」
芳恵 「春の七草は、和人さん言えるかしら?」
和人 「えっ、えーっと……せり、なずな、ゴボウ?」
芳恵 「ふふふ、ごぎょうよ、ゴギョウ。」
和人 「あぁ……」
こども2 「ふふ、お兄さんへんなのー!」
 
各々が楽しんでいる。
 
芳恵 「ふぅ、一足先に休憩、香花ちゃんもどう?」
香花 「ではお言葉に甘えて、あ、コーヒー飲みます?」
芳恵 「あら、いいの?」
香花 「はい。良いの持ってきたんですよ~」
芳恵 「本当?どれどれ?」
香花 「……どうです?」
芳恵 「あら、これ……」
香花 「はい、それは」
 
和人がやって来る。
 
和人 「はぁ……はぁ……」
香花 「和人くん、どうしたの?そんな息切れして」
和人 「どうもこうもないですよ……なんか流れで鬼ごっこはじまって、そのまま」
子ども1 「あ!和人にいちゃんみっけー!」
子ども2 「みんなーこっち!」
和人 「なんでか、俺を捕まえるゲームになってるんです!うわああ!」
 
和人去る。
 
香花 「あらら、行っちゃった」
芳恵 「うふふ、子供たちもいい遊び相手が出来て嬉しそうね」
香花 「ですねぇ」
芳恵 「さて、そろそろ、次の準備に取り掛かろうかしら」
香花 「おっ、いよいよですね」
芳恵 「えぇ、いよいよ。香花ちゃん、そこの取ってくれるかしら?」
香花 「はい」
 
和人 「うわああああ!」
 
香花 「うふふ、がんばれがんばれー……ん?」
芳恵 「香花ちゃーん、こっちに……。?どうしたの?」
香花 「あそこに一人いる子。なんか、寂しそうで」
芳恵 「え?あぁ、白石勇汰くんね」
香花 「勇汰くん?」
芳恵 「そう、今日本当はお母さんと来る予定だったんだけど、急に午前中お仕事になっちゃって」
香花 「そうですか……」
芳恵 「最近多いのよ、白石さん。なんか仕事であったのかしらねぇ」
香花 「……お父さまは?」
芳恵 「出張が多いお仕事で、今日はねぇ……」
香花 「そうなんですか……」
芳恵 「最初の方は、頑張ってたけど、寂しくなっちゃったかしらねぇ……」
香花 「……ちょっと行ってきてもいいですか?」
芳恵 「えぇ、行ってあげて。準備はこっちでしちゃうから」
 
勇汰のシーン。
 
勇汰 「……」
香花 「勇汰くーん」
勇汰 「あ……お花屋さんのお姉さん……」
香花 「ふふふ、お花、なにか見つけた?」
勇汰 「うん……」
香花 「どれどれ、おぉ、沢山みつけたね~すごい!」
勇汰 「うん、ママに渡すんだ」
香花 「そっか、ママ、すっごく喜ぶよ!」
勇汰 「ほんと?」
香花 「うん!だって、勇汰くんが見つけてくれた花だもん、きっとママ、喜ぶに決まってるよ」
勇汰 「そっか……なら、いいな……」
香花 「……勇汰くん、なにか、あったの?」
勇汰 「……うぅ、」
香花 「えっ」
 
子ども2 「あー!お姉さん勇汰くん泣かしたぁー!」
香花 「ふぇっ」
子ども1 「勇汰くん大丈夫―?」
香花 「あのっ……」
 
和人 「香花さん、」
 
香花 「っ!?」
勇汰 「うぅぅ……」
香花 「はっ……!?」
 
和人 「……いけないんだぁー!」
 
香花 「ち、違いますっ!!!」
 
場面変わって、園長先生のところへ。
 
芳恵 「さぁ、そろそろ落ち着いたかなぁ」
勇汰 「……うん」
香花 「ごめんね、勇汰くん、悲しいこと思い出しちゃったよね」
勇汰 「ううん、だいじょうぶ」
香花 「そ、そう……」
芳恵 「……勇汰くん」
勇汰 「ん?」
芳恵 「園長先生、勇汰くんが泣いたって聞いて、すっごく驚いちゃった。とっても心配しました」
勇汰 「……うん」
芳恵 「もし勇汰くんが、お話できそうなら、お話して欲しいな。もちろん、ゆっくりで大丈夫だし、泣いたって大丈夫です」
勇汰 「あのね……」
 
時間は進んで。
 
芳恵 「さぁて、皆さん、沢山の自然と触れ合いましたかー?」
 
子どもたちがはーいという。
 
芳恵 「あらぁ、園長先生、その言葉が聞けてとっても安心しました!いつもなら、これでさようならをしますが、今日はなんと、園長先生がとっておきの秘密兵器を持って来ました!じゃーん!」
 
そこにあるのは、顕微鏡や、虫メガネ。
 
こどもたち 「うわぁああ……!」
 
芳恵 「みんなが取って来たものや、拾ってきたものを、人の目だけでは見えない、ちーさなところまで見れる虫メガネと、顕微鏡という道具を持ってきました!使ってみたいよー!という子は、自分の見たいものを一つ選んで、先生に渡してください。いいですかー?」
 
こどもたち 「はーい!」
 
和人 「顕微鏡かぁぁ……!」
香花 「あっ、教えてなかったもんね。ごめんごめん」
和人 「通りで重いはずだよ、あんな数……」
香花 「ありがとねぇ」
和人 「というか、虫メガネは分かるけど、顕微鏡は珍しいっすね」
香花 「うん、あれ園長先生の私物」
和人 「ふーん……は?」
香花 「園長先生、元は理科の先生だったからねぇ」
和人 「そういうこと!?」
香花 「そう。さて、私たちも、もうひと踏ん張りしましょうか」
和人 「あっ!ちょっと!っというか!」
香花 「ん?」
和人 「あの子、勇汰くんは」
香花 「うん。とりあえず、憶測通りなら、まぁなんとかなるよ。」
和人 「は、はぁ……」
 
園長先生と勇汰のシーン。
 
勇汰 「うわぁぁ……」
芳恵 「どう?なんか見えた?」
勇汰 「うん!なんか点々みたいなのがたっくさんある!」
芳恵 「そう、それは大発見ねぇ」
勇汰 「これが、お花をつくってるの?」
芳恵 「その通りよ。こんなにキレイに見えるなんて、勇汰くんはラッキーねぇ」
勇汰 「見えない時もあるの?」
芳恵 「そうよ。いつも同じように見えるとは限らないわ」
勇汰 「そうなんだ……」
 
イベント終了間際。
 
芳恵 「さぁて皆さん、今日は思う存分楽しめたよー!って人は、手を挙げて―!」
 
こどもたち 「はあああい!」
 
芳恵 「わぁ、園長先生もとっても楽しかったです。今日楽しかったこと、面白かったこと、びっくりしたこと、しっかりお家の人とお話したり、また公園にいったりする時は思い出して、いろいろ試して、チャレンジしてくださいね!」
 
こどもたち 「はあああい!」
 
芳恵 「それじゃあ、さようならを言う前に、今日お手伝いに来てくれた、香花お姉さんと、和人お兄さんにありがとうございましたと、大きな声で言いましょう。せーの!」
 
子どもたち 「ありがとうございました!!」
 
香花 「はい、こちらこそありがとうございました!とっても楽しい一日になりました!これからも色んなお花、生き物、素敵なものをいっぱい見つけてくださいね」
和人 「あ、ありがとうございました。久しぶりに鬼ごっこやれて楽しかったです!また一緒に遊んでください!」
 
子ども1 「変なの~」
子ども2 「お兄ちゃんおもしろーい」
和人 「なっ……」
芳恵 「はいはい!それでは、自分が持ってきたものを忘れずに、お家の人と来た子は気を付けて帰りましょう!保育園に帰る人は、先生の言うことをようく聞いて動きましょう。それでは、気を付け!さようなら」
 
こどもたち 「さようなら!!」
 
子供たちがわらわらと帰っていく。残される勇汰。
 
勇汰 「ママ……」
 
そこにやって来る母・菜月。
 
菜月 「勇汰!」
勇汰 「ママ!」
香花 「!先生」
芳恵 「えぇ、勇汰くんお母さん」
菜月 「あっ、園長先生、朝はありがとうございました……おかげで仕事が無事終わりました」
芳恵 「お気になさらずに。あれこそ私どもの仕事ですので」
菜月 「いえいえ、そんな」
芳恵 「どうですか、すぐ来て帰るのもあれでしょうし、休憩されませんか?私も今日の出来事をお話したいので」
菜月 「はい……あ、でも……」
勇汰 「ママ?」
香花 「勇汰くんなら大丈夫ですよ。遊び相手ならここに」
和人 「え?」
香花 「ほら」
和人 「……。勇汰くん、さっきあっちでもぐら見かけたんだけど、一緒に探さない?」
勇汰 「えっ、探す!!!」
和人 「いこっか」
 
和人と勇汰去る。
 
芳恵 「さ、こちらにどうぞ。お仕事お疲れでしょう」
菜月 「ありがとうございます……」
香花 「もしよろしければ、コーヒーどうぞ」
菜月 「あっ、結構です。お気持ちだけ受け取っておきます……」
香花 「……やっぱり」
菜月 「え?」
香花 「そういうと思ってました」
菜月 「どういう……」
芳恵 「白石さん、あなた……妊娠してますね?」
 
一方その頃、和人と勇汰。
 
和人 「勇汰くん見つかったー?」
勇汰 「……」
和人 「あっ、こっち、結構土盛り上がってる、こっち探してみよっか」
勇汰 「……」
和人 「……はぁ……心配?」
勇汰 「ん?」
和人 「心配か?母ちゃんのこと」
勇汰 「……うん。園長先生とねお花のお姉さんに、お話したんだ」
和人 「おう」
勇汰 「そしたら、お迎えくるとき、ママとお話するって」
和人 「おう」
勇汰 「ちょっと、怖い顔してた、かも……」
和人 「怖い顔?」
勇汰 「むーって、してるの。こんな感じ」
和人 「あー、そういうこと?それは怒ってないよ」
勇汰 「そうなの?大人の人、みんなよくするよ」
和人 「まぁ、大人はさ、色々大変なんだよ。だからそういう、むーって顔することが多いんだ」
勇汰 「そっか、じゃあ、ママもそうなんだ」
和人 「ママも?」
勇汰 「うん」
 
場面変わって、香花たち。
 
菜月 「どうして……妊娠だと」
香花 「コーヒー」
菜月 「え……」
香花 「今、控えましたよね?あ、私、近くで花屋を営んでおります。藤田香花と言います。本日はイベントのお手伝いに来ました。」
芳恵 「白石さんごめんなさいねぇ。この子、私の教え子なの」
菜月 「は、はぁ……」
香花 「すみません、いきなりお話をしてしまって。で、コーヒー、控えてましたよね?」
菜月 「え……あ、あぁ……でも、これだけじゃ、嫌いな人だっているかもしれませんけど……」
香花 「そうですね、ですが、これを実行するまえに、少し違和感あるお話を園長先生からお聞きしました」
菜月 「違和感ある話?」
香花 「はい。先ほど、勇汰くん、寂しそうにしてた時があったんです」
菜月 「そう、ですか……」
香花 「はい。その時に、園長先生から、白石さんのお話を少しだけ、お聞きしました。お仕事、お忙しいんですね」
菜月 「はい、でも、それも別に……」
香花 「はい、確かに忙しい時もあると思います。ですが勇汰くんは来年で一年生。タイミング的に大きな仕事を抱えるのは違和感がありました。」
芳恵 「ごめんなさいねぇ、この子頭すごく冴えてる子なの」
香花 「なので、これは憶測です。産休のために、仕事の引継ぎで忙しいのではないかと思いました」
菜月 「……」
香花 「どうでしょう……?」
菜月 「はい、そうです。その通りです」
香花 「やっぱり……」
菜月 「すごいですね、それだけでわかってしまうなんて」
香花 「いえ、これだけじゃあ、あまりにも想像すぎます」
菜月 「え?」
芳恵 「決め手は、勇汰くんが教えてくれたのよ」
菜月 「勇汰が?でも、勇汰にはまだ……」
芳恵 「えぇ、でも勇汰くんがさっきお話してくれたんです。最近ママがむーってしてるって」
菜月 「むー?」
 
回想シーン
 
芳恵 「むー?」
勇汰 「うん、僕には笑ってくれるんだ。でも、お料理してる時とか、テレビ見てる時とか、むーってするんだ」
芳恵 「そう」
勇汰 「だから、僕、ママに笑って欲しいから、一杯お話するんだけど、ママ、すぐね、どっか行ったり、眠っちゃったり、トイレ行ったりするんだ」
芳恵 「……そう」
勇汰 「僕、ママに嫌われてるのかな」
 
回想シーン終わり
 
菜月 「そんな!勇汰が、そんなことを……」
芳恵 「子供って、意外と大人を見ているんですよ。なんたって、大人を見て子どもは育つから」
菜月 「私、勇汰に酷いこと……」
芳恵 「わかるわ。安定期に入ってない時に誰かに言うのは。迷うところよねぇ。言わないでうまくいくことだって、全然あるもの」
菜月 「……うまく、いかないものですね」
芳恵 「そんなことないわ」
菜月 「え」
芳恵 「はじめてなんだから、いいのよ、それで。むしろ最初で最後の経験になるようなものよ?わからなくて当然なの」
菜月 「園長先生……」
芳恵 「大丈夫、そんなことで親子の関係は崩れないわ、だいじょうぶ」
菜月 「……はい……!」
芳恵 「よし、じゃあ勇汰くん呼んで来ましょうか!」
菜月 「はい……!!お願いします……!」
香花 「先生、私が行きますよ」
芳恵 「いいえ、私が行くわ。その代わり、白石さんとそのコーヒーでも飲みながら待ってて」
香花 「はい」
菜月 「えっ、でも、コーヒーは……」
香花 「大丈夫ですよ、そのコーヒーは妊婦さんも飲めるコーヒーですから」
芳恵 「行ってくるわね」
香花 「はい、お気を付けて」
 
芳恵去る。
 
菜月 「飲めるって……」
香花 「これ、実はたんぽぽから出来てるんです」
 
場面変わって和人と勇汰。
 
和人 「そんなことないよ」
勇汰 「え?」
和人 「お前のこと、ちゃんと好きだって」
勇汰 「本当?」
和人 「あぁ。ちょっと母ちゃんご機嫌斜めなんだよ。お前だってそういう時あるだろ?怪我したり、熱出したり、嫌なことあった時とか」
勇汰 「うん」
和人 「そういう時、勇汰の母ちゃんどうしてる?」
勇汰 「いたいのいたいのとんでいけーってするし、ぎゅーってして、大丈夫って言ってくれる!」
和人 「じゃあ、勇汰が今母ちゃんにすることは?」
勇汰 「ママに……ママに、いたいのいたいのとんでいけってして、ぎゅーってして、大丈夫って言う!」
和人 「そうだな」
 
そこに芳恵が登場。
 
芳恵 「おーい勇汰くーん!」
勇汰 「あっ!園長せんせええ!」
和人 「おっ、やっと来た」
芳恵 「ごめんねぇ、ママと会うの楽しみにしてたのに。延ばしちゃったねぇ」
勇汰 「大丈夫だよ!ママに早く会いたい!」
芳恵 「そうね、ママのところ行きましょうか。勇汰くんのこと、待ってるわ」
勇汰 「うん!僕もママに早く会いたい!!!」
 
勇汰が駆け足で向かう。
 
芳恵 「あらあら、気を付けてねぇー!」
和人 「あ、あの……」
芳恵 「ふふ、ありがとう、子どもの面倒みさせちゃって」
和人 「いえ、俺は何も」
芳恵 「そう?子どもから好かれるのって、結構才能なのよ?うふふ」
和人 「……」
 
場面変わって香花と菜月。
 
菜月 「たんぽぽのコーヒー……」
香花 「正しく言えばたんぽぽの根からとったコーヒーですが……」
菜月 「へぇ……たんぽぽって飲めるんですね」
香花 「はい、あっ、アレルギーありますか?ブタクサやキク、マリーゴールドなど」
菜月 「大丈夫ですよ」
香花 「では、どうぞ」
菜月 「(飲む)……あ、なんか、コーヒーと、お茶?っぽい味がするような……」
香花 「はい、コーヒーとは言っても、昔は高価だったコーヒーの代替品として生まれた飲み物なんです」
菜月 「そうなんですか……でも、なんだか優しい味がします」
香花 「たんぽぽの花言葉は真心の愛や幸せ。ぴったりだと思いません?ノンカフェインで、身体にも優しい。妊産婦も飲める。だからこのコーヒーの需要は続いてます。」
菜月 「なるほど……」
香花 「さっき、園長先生が妊娠していることを隠すか隠さないか、わからなくて当然と、仰ってたじゃないですか」
菜月 「……はい」
香花 「それってどちらにも需要があるから、意味があるから、今でも正解はない、ということだと思うんです」
菜月 「意味がある……ですか……」
香花 「はい、だから、まぁ、何と言いますか……前向きにいきましょう」
菜月 「……ふふ」
香花 「うふふ、あっ、もう一杯いかがですか?」
菜月 「はい、いただきまs……」
 
そこに勇汰が登場。
 
勇汰 「ままぁー!!!」
 
菜月 「!!勇汰?ゆうたぁーーー!!」
 
勇汰 「ママ!!!!!」
 
菜月、勇汰を抱きしめる。
 
菜月 「勇汰勇汰……」
勇汰 「ママ苦しいよ!へへ」
菜月 「勇汰、ごめんね、ママ……ママ……」
勇汰 「僕は大丈夫だよ!
菜月 「勇汰……勇汰、実はっ……」
勇汰 「ママは?ママは痛くない?」 
菜月 「へ……?」
勇汰 「ママ、むーってしてたの、ずっといたいいたいなんでしょ?悲しい?お熱ある?ぎゅーってしたら、治る?」
菜月 「勇汰……」
勇汰 「ママ?」
菜月 「大丈夫、勇汰がいれば、ママ、すぐ治っちゃうよ」
 
もう一度抱きしめる。
 
勇汰 「ママいたい!苦しいって!!」
 
遠くで見つめる香花たち。
 
芳恵 「一件落着ね」
香花 「そうですね」
和人 「えっ、でも、お母さんまだ勇汰くんに……」
芳恵 「良いのよ。それが一番なら」
香花 「ふふ」
 
勇汰 「園長せんせぇー!お兄ちゃーん!おねえちゃーん!さよーならー!」
 
芳恵 「はぁい!さようならー!」
和人 「気をつけて帰れよー!」
 
勇汰、菜月、帰る。
 
芳恵 「さて、お腹空いたわねぇ、何か食べてから戻ろうかしら?一緒にどう?」
和人 「え、いいんですか?」
芳恵 「今日のお礼もかねてね。あっその前に公園の管理人さんにお礼を言っておかないと。ちょっと荷物見ててもらっていいかしら?すぐ戻るわ」
和人 「はい」
 
芳恵去る。
 
和人 「ふぅ、はぁぁ、なんか長かったなぁ~でもまだお昼始まったばっかだし、なんか濃いなぁ~、ですよね?香花さん。……ん?香花さん?」
香花 「なんで、」
和人 「え?」
香花 「なんで勇汰くんに最後、私より先に名前呼ばれてるの……」
和人 「え?あー、お兄ちゃん、おねえちゃんって?」
香花 「そりゃ、私勇汰くんのこと、泣かせてしまったけど、けれど、お姉さんとして、しっかりしてたはずなのに……」
和人 「……そういうとこじゃ、ないっすか?」
香花 「へ?ど、どういうこと?」
和人 「さっ、荷物持って、園長先生のところ行きますよ~」
 
和人去る。
 
香花 「ちょっと、和人くん!和人くんってば!」
 
場面は勇汰と菜月。
 
勇汰 「あっそうだ!」
菜月 「んー?」
勇汰 「ママに!」
 
雄太の手にはたんぽぽの花。
 
菜月 「勇汰……これ……」
勇汰 「たんぽぽだよ!ちょっと、元気なくなちゃった……」
 
香花(回想) 「たんぽぽの花言葉は真心の愛や幸せ。ぴったりだと思いません?」
 
菜月 「……」
勇汰 「ママ……?」
菜月 「ううん、ありがとう勇汰。お家に帰ったら、たんぽぽさんにお水あげよっか」
勇汰 「うん!!!」
 
完。

(全文 10,552字)
 
 

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