見出し画像

なぜ医療安全を学ぶのか、その意義と安全努力の責務について

※画像はスキマナースから

看護師が当事者となる重大な医療事故の多くは、注射や機器操作などの間違いでおきています。
人は、日常生活でもしばしば間違いをおかしますが、医療現場ではわずかな間違いでも、患者さまの障害につながりかねません。
まず、人がなぜ間違いをおかすのかを理解したうえで、医療安全を学ぶことの意義を考えたいと思います。

💫この記事はこんな人が書いています💫

星河七瀬です。
看護師から総務に異動し1年で職員の給料を2~3万円アップ、3年で自身の給料をも10%アップさせたそのノウハウを、誰かのためになればと備忘録としてまとめたいと思っています。
患者さまに安心安全な医療を届けるためには、まず従業員の安全と満足度を高めるべきだろうという考えのもと、病院の職場環境改善や経営戦略、集患・増収対策に務めています。
医療業界のみならず、様々な職場環境が明るくなることを祈っています。

人はなぜ間違いをおかすのか

人間がおかす間違いを、学問的にはヒューマンエラーといいます。
エラーの定義はさまざまですが、看護現場にあてはめると、”看護業務上要求されている行為”から逸脱した行為といえます。
つまり、するべき行為を忘れたり、間違いや不適切な行為をすることを意味します。

脳の情報処理過程からみたエラー

エラーは、脳の情報処理過程におけるミスで発生します。
そのプロセスは次のように示すことができます。

  1. 眼や耳よりはいってきた感覚情報を選択

  2. 情報を認知

  3. 情報を判断

  4. すべきことの決定

  5. 行動

人間は、眼や耳などの感覚器からはいってきたさまざまな感覚情報を、常日頃から得られています。
その情報のうち、まず必要な情報を選択して「それが〇〇である」と認知します。
そして、蓄えられた知識や経験の記憶をもとに、その状況や意味を判断し、なにをどのようにするべきかを決定します。
その結果、自分の四肢に銘じて行動を遂行させます。
エラーとは、この情報処理のどこかでミスが発生し、逸脱した行為となったものなのです。

このプロセスにおけるミスの過程には、以下のようなものが挙げられます。

  • 感覚・認知ミス:見間違い、聞き間違い

  • 判断・決定ミス:知識や経験の不足

  • 行動ミス:処理能力の限界(多忙など)

とくに新人にミスが多いのは、経験や知識不足が招く見間違いや聞き間違いがあったり、処理能力(キャパ)の限界によるものがほとんどです。

意識状態の変動と、医療安全を学ぶことの意義

脳での処理情報は、そのときの意識状態によって影響を受けます。
たとえば、十分な睡眠をとって元気なときと、疲労や睡眠不足のときでは、仕事の正確さがちがうことは誰でも経験することでしょう。
また、適度な緊張でやる気満々の状況と、リラックスした状況においても同様です。
なぜ、こうした差が生じるのでしょうか?

意識状態によって信頼性は変わる

人間が最も明晰(めいせき)な状態、つまり頭がさえわたっているときの意識においては、ともて能動的、積極的に活動し、前向きで注意深いです。
常日頃からこういう状態ですと、その人の信頼性は極めて高い状態で、とうてい何かミスをするとは思えないと思います。

しかし、勤務中のおよそ8時間程度、常にこの状態でいられる人間は存在しません(多分)。
ずっと明晰な状態を保つためには、脳は多大なエネルギーを使うからです。
8時間どころか、わずか数十分ほどしか持続できない、とも言われています。
強い緊張を必要としない、定例的な作業を繰り返している場合は、受動的でリラックスした状態と言えます。
リラックスと言っても仕事をしているわけですから、そりゃ家でゴロゴロYoutubeやtiktokを見ているのとはわけが違いますけど……
落ち着いて仕事ができている、という意味でのリラックスですね。

一方、強い興奮状態にあってパニクってるような人は、要注意です。
程よい緊張どころか、過度の緊張にさらされた興奮状況の意識下では、一転に注意は固着し、もはや冷静な判断や行動はできなくなります。

危険を知ることで、明晰な意識状態に

日常の業務は、適度な緊張と適度なリラックスの意識状態で繰り返されています。
もし患者さまの急変などで過度に緊張にさらされると、興奮状態になってしまうこともあります。
こうした意識状態の変動は避けられませんから、人間は注意力を常に最良の状態に保ち続けることはできない、ということになります。
しかし、業務のどこに患者さまの障害につながりうる危険があるかということを認識できていれば、緊張のスイッチを切り替えることは容易になるでしょう。
すなわち、医療安全を学ぶことは、事故につながる間違いを減らすことに、必ず役に立つと考えます。

人間の3つの行動モデル

ラスムッセン(J.Rasmussen 1926-2018 デンマークの安全科学研究者)は、人間の行動を次のモデルに分類していました。

スキルベースの行動

スキルベースの行動とは、熟練した定常業務(Skill)で、無意識的・自動的にとる行動のことです。

ルールベースの行動

ルールベースの行動とは、それまでに何度か経験したことがある状況にたいして、記憶している前のやり方(Rule)をあてはめて判断し、行動することです。

知識ベースの行動

知識ベースの行動とは、未経験や不慣れなことを行う際に、知識に照らして状況を判断しながら1つ1つの行為を行うことです


スキルベースの行動でのミスは、無意識的であるがゆえに、教育による防止も困難とされています。
一方、ルールベースと知識ベースの行動におけるミスは、医療現場のさまざまな危険に関する知識やルールの背景にある根拠を学ぶことによって、減らすことができるはずと言われています。
これが、医療安全を学ぶことの意義の1つ、とも言われています。

医療職を選ぶことの重さと安全努力の責務

数ある職業のなかで、医療職ほど、わずかな間違いでも対象の障害に直結する職業はありません。
医療がほかの職業と最も大きく違うところは、サービスの対象が人間、それも疾病や障害、苦痛を心身にもつ患者さまである、ということです。
さらに、そうした患者さまに対し、診断・治療上の必要性から、危険な医療行為が行われることもある、ということになります。

危険とプレッシャーにさらされる看護師

看護師はそうした危険行為にかかわることが、ほかのコ・メディカル(医師を除く医療従事者の総称:保健師、助産師、薬剤師、臨床検査技師など多岐にわたる)よりもはるかに多いです。
その最たるものが、注射業務です。
注射は、針を刺すという行為自体も危険ですが、そこから薬剤を生体内に注入することは、さらに危険な行為です。
医療現場には、わずか1~2mLの薬液でありながら、投与方法や投与速度を間違っただけで患者さまの傷害につながる注射薬が多用されています。
薬剤はその薬理作用にかなった目的と方法で投与されると、有益な結果をもたらします。
しかし間違えれば、傷害をもたらすだけでなく、最悪の場合は患者さまを死亡させることもあります。

また、対象が疾病や障害をもった患者さまであるがゆえに、患者さまの病態の変化やニーズへの対応で、緊急・多忙状況におかれやすいということもあります。
さらに、異質の業務を同時に進めなければならない状況のほか、業務途中に他の業務のために中断せざるをえない状況もたびたびおこるわけです。
そうした状況では注意力の低下・分散がおきやすく、間違いが誘発されやすいものです。

つまり、看護職は日常的に危険にかかわる職業であり、さらに間違いを誘発するさまざまなプレッシャー状況にもさらされやすい職業です。
そして、疾病や障害をもった患者さまが対象であるがゆえに、間違いが起きれば重大な結果に結びつきやすい業務となっています。

まとめ:医療安全努力は看護師の責務

こうした特性がある職業を選択することの重さを認識し、医療職の一員としての基本的な倫理観の修得は必須といえます。
それはもとより、重大な結果に結びつくことのないよう、医療安全に関する知識・技術を積極的に修得していかなければいけません。
また、チームや組織の一員として医療安全活動に積極的に取り組むことは、今日の看護師の責務であると言えます。

人は間違いをおかすものという前提で、その間違いをできるだけ減らすための努力をしましょう、ということですね。
看護師って、辛ぇわ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?