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【ボクの細道】#2「フルネーム+ちゃん」

スーパーのレジの人へ
ボクがチェコ語全然分からなくて手間取ったとき、包帯でぐるぐる巻きになっている中指を立てましたね。その気持ち、痛いほどわかります。
プラハ

幼稚園の頃の思い出はいくつか残っている。
近くの席の女の子に、「バカ」と言われて「バカ」と言い返したら、幼稚園の先生に告げ口されてボクだけが怒られた。それぐらい口下手だったのだ。今もそうっちゃそうだけど。なんでボクだけが怒られるんだろうと鬱屈した気持ちが溜まっていた。だから、人と話せるようになろうと子供心に思った。

ヨーロッパに来て、言語が通じなくて、あのときと同じぐらいに鬱屈した気持ちになる。言語が通じないから多少のトラブルはしょうがないだろうと思うこともできるのだけど、ボクはこんなことで悩んでしまう。
プラハのスーパーで通貨を両替してなかったから、カードで払おうとしたらマスターカードがアクセプトされなくて何回もやり直して中指を立てられた。ウィーンでは、量り売りしてシール付けてくるべきやつを知らなくてやれなくて、小言を言われたりした。でも、スムーズに行かないストレスはわかる。怪我をしている中指を立てるのも納得できる。

あれから、幼稚園の先生に会うことはないと思っていたのだけれど、大学生になって自分のチームにコーチとして戻った。そこで当時の幼稚園の先生の息子が自分の教え子になった。教え子の教え子が先生の息子。極めて複雑な構図。その先生に年末最後の試合の後、保護者に挨拶して回った。

当時の幼稚園の先生が十数年ぶりにボクを見て、絞り出すようにしながらこう言った。

「あつぎだいちゃん?」

フルネーム+ちゃんというコンビネーションを大事にしていこう。そう思った。


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