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先輩が好きだ

大学1年生。
私は入学してまもなく、好きな人ができた。
相手は4年生。
きっかけは、軽音部の新歓ライブ後の打ち上げだった。軽音部に入る気はさらさらなかったが、軽音に入りたがっていた友達に誘われて、なぜか私も参加する羽目になった。
入った者順で詰めて座ったら、後から来た男の先輩達が、((見たこともない女子(私)が座っている隣に誰が行くか))みたいな雰囲気になっていた。申し訳ないなと思っていた時に、サッと私の横に座ったのが先輩だった。

軽音の先輩たちはみんなフレンドリーな方々で、
性別関係なく近くの人たちとおしゃべりしたり騒いだりしていた。正直圧倒された。
自分と似たような世代の人達が酔っている姿もこの時初めて見た。

私はもともと異性と話すのが苦手だったので、あまり輪に入れず静かにしていた。
そんな私を気にかけるかのように、
しばらくすると先輩が話しかけてくれた。

「普段なに聴くの?」

びっくりした。
まさかグループトーク以外で話しかけられるなんて思ってもいなかったから。
緊張のあまり何と言ったかは覚えていないけど、
最近のプレイリストを見せたことは覚えている。
私が画面を見せると先輩が近づいてきて、
私のプレイリストをスクロールしながら、
「わぁ、、いいね」と呟いたり、
「下北界隈じゃん」「これ聴いてるのあつ!」などと嬉しそうにしていた。
率直に、かわいかった。
その後もいろいろ喋った。
音楽の話、ギターの話、出身地の話などそれはもういろいろと。

打ち上げから帰っても、頭の中は先輩のことでいっぱいだった。
他の先輩たちともたくさん話をしたけれど、それよりも先輩だった。
何日か経ち、先輩とインスタ繋がりたい!という欲が芽生えた。
私は先輩のアカウントを必死に探した。
でも結局分からず、他の軽音の先輩にアカウントを教えてもらった。
フォローして、フォローが返ってきて、DMを送った。

それから毎日のように先輩とDMをしていた。
先輩は私のことなんてなんとも思っていないようだった。返信も次の日とか2日後だった。

先輩は4年生で来年からはいなくなると考えたら、
早く関係を進展させたかったし、欲を言えば先輩と付き合いたかった。

毎月の学内ライブ後、打ち上げの度に先輩に会えた。
タバコは嫌いなはずなのに、タバコを吸っている先輩は好きだった。
静かに夜空に舞う煙を見て、この煙になりたいとまで思った。
見惚れる私を見て「どしたの?」って私を見る目も好きだった。
先輩の目は危ない。目力が強いのか、目つきが鋭いせいか、目が合うと吸い込まれそうになる。
傍から見たら、先輩フィルターだとか大学生になりたてだから心が浮ついていたとか、いろいろ思うことはあるかもしれない。
でも、そんな理由じゃ通用しないぐらい、先輩が好きだった。

2ヶ月ほど経ったある日、
軽音の女の先輩のストーリーに、彼氏の私物を使ってます的な内容の画像があがっていた。
書かれていた彼氏さんの名前が、先輩の名前と同じだった。途端に嫌な予感がした。
不安な気持ちのままハイライトを見ると、
そこには、先輩と2人きりで年越しをした様子や、記念日のストーリーがあった。
さすがに察した。確だと思った。
その瞬間、私は失恋した。

どうやったらもっと会話弾むかなとか、
夏休みまでに気持ちを伝えるべきかなとか、
そんなことばかり考えていたけど、全部無意味なものになった。

先輩、勝手に好きになってごめんなさい。
彼女がいるのに、アタックしてごめんなさい。
好きが見え見えでダルかったですよね。
なのに相手してくださってありがとうございました。
もう話しかけません。
心の中でそう思いながら、先輩とのDMの日々を終えた。
自分でもびっくりするほどあっけなく。

それからは学内で先輩を見つけても、視界に入れないようにした。
早くこの気持ちを無くさなきゃと思った。
DMをしていた頃は、大学で先輩に会いたくて、
でも4年生だからなかなか出くわすことがなくて、

「先輩、何曜日登校ですか?」
「ほぼ毎日いるよ」
「じゃあ私運悪いです絶対」
「ただ4年だからラウンジとかいないかも。暇な時は大体部室です」
「じゃあ私お見かけできませんね」
「部室に来ればいいのでは?」
「先輩に会いにですか?」
「ギターを練習しに?」

なんて会話をした。
今思うと私はバカみたいな返信しかしていない。
でも、ただまっすぐに先輩が好きだった。
ほんと、恥ずかしいぐらい。

2ヶ月という短い時間だったけど、先輩への好きの気持ちは大きかった。
軽音に入ったきっかけも、ギターを始めたきっかけも先輩だった。

時が経ち夏休みに入って、唯一音楽の趣味が合う女の先輩にバンドを組もうと誘われた。
ルンルンでその話に乗ったら、なんとメンバーには先輩もいた。
それを知って、やっぱりやめますなんて言えるはずもなく、もう関わっちゃいけないと思っていた矢先に先輩とバンドを組むことになった。

夏休みだからふつうだったら先輩には会えない。
夏休みじゃなくても会えない のに、
夏休みのくせに、合わせ があるから先輩に会えた。

先輩はかっこよかった。
合わせをする場所は毎回小さなところだったので、腕を伸ばしたら触れられる距離に先輩がいた。
私にとってはただのご褒美だった。
SSMEを歌う先輩を間近で見て、
なんてかっこいいんだ、、と思った。
かっこよすぎて言葉を失った。
あんなにも人に魅了されたのは初めてだと言っても過言じゃないぐらい、私は先輩に魅了されていた。

合わせの後は毎回そのまま夜ご飯を食べに行った。
お店に向かう道中も、お店に着いてからも、
バンドメンバーに1年生が私一人だけだからか、
私のことを気にかけて先輩がずっと話しかけてくれた。そんな優しいところが好きだった。

学童バイトの話を楽しそうに話す先輩も好きだった。
社会科の教師になりたいと言っていた先輩も好きだった。
大きすぎるキクラゲをもらって毎日食べているせいで、キクラゲを見ると気持ち悪くなると言っていた先輩も好きだった。
本当に、どんな先輩も大好きだった。

無事に夏のライブも終わり、秋、冬、そして今に至る。
相変わらず私は先輩が好きだ。
この気持ちは抱えてちゃいけない、早く無くさなきゃと思っていたけれど、先輩を想う気持ちは一向に消えてくれなかった。
ちょっとだけでも消えてくれたらいいのに。

たまに先輩を見かけることがある。
大学はもちろん、バイト帰りに信号を待っていたら向かい側に先輩がいたり、
会えるはずもない休日のくせに自転車を漕いでいたら会ってしまった、なんてこともあった。
本当良くない。
どれだけ人混みにいても先輩を瞬時に見つけてしまうこの目も、行く先々で鉢合わせさせる神様も、
本当良くない。
忘れよう、忘れようと思っても消えてくれそうにないので、このまま静かに心の中で想い続けることにした。

先輩、どうか、彼女さんとお幸せに。
春からの社会人生活応援しています。
いっぱいありがとうございました。

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