滅びの前のシャングリラ

『滅びの前のシャングリラ』/凪良ゆう 著

凪良作品『流浪の月』、『わたしの美しい庭』読後の3作目。
ちょっと歪な家族の物語。世界の終焉に、人はどう生きるのかーー。

それぞれの「理想郷」

4章に分かれていて、それぞれ息子、母、父、歌姫の視点で書かれている。恥ずかしながらそれぞれの章のタイトルの言葉の意味を理解していなくて調べてみると、最後の「いまわのいわ」以外は、「理想郷」。番外編の「イスパハン」は作中に登場したお菓子の名前。マカロンにクリームが挟まっているような。
世界の終焉が舞台なのに理想郷を掲げる対比にぞくぞくした。

静香の生き様

いちばんかっこよかった。メインの登場人物はもちろんみんな刹那に生きる強さが滲み出ていたんだけど、中でも静香の度胸に感服した。その強さの中には息子の友樹への深い深い愛情があって、愛するがゆえに迷うけれど、持ち前の強さで切り拓いていく。子を想う母親の深淵を覗いた気分。自分がもし静香だったら…と想像するとかけ離れていて可笑しい。静香みたいになってみたいなあ。
友樹もちゃんとお母さんを見ていたから心優しい子に育った。
目力さんも彼なりの不器用さで家族やみんなを守り、背中で語る男だった。世界が秩序を失い生きるため野生が理性を上回っていく中、彼は逆に理性に生きているように見えた。お墓に花を備える姿とか。

雪絵の苦悩

養女としてやってきたあとに生まれた妹の名前が「真実子」。堪えるよなあ。家出しても電話がかかってこない、何かあった時真っ先に心配されるのは真実子。
それでも、同じように愛してくれているんだと自分に言い聞かせている雪絵がいじらしい。妹にもLINEしてスタンプ送って、しっかり者のお姉さんなんて。腐らずに気高く強く生きてきたのは雪絵の強さ。
星が滅びる最後の時に、温かい家族を感じられてよかった。大好きなアーティストのLIVEに行けてよかった。

Loco

自分とは真逆の人で、小説だけどこんな人いるんだなあ!って新鮮で驚いた。目立つのが好きなんて人生で一度も思ったことないし、だから周りにはそういう人がいなかったし、本の中で出会わなかったら出会うことがなかったかもしれないなと思うくらい。
最後の最後に、仮面を外した純粋な自分のそばに家族や友達がいてよかった。希望に生きた路子もかっこいい。

結論。

みんなかっこよかった。
スイッチがいい方へ変わっていってるのに世界が終わる。いや、世界が終わるからいいスイッチが入ったのかもしれない。希望を掴みかけたのに目の前に迫る巨大な絶望に対してあくまで最後まで希望の灯をともした。
「地球が滅びる」「殺人を犯す」「生き別れた家族と再開する」カオスになるには十分な条件。混沌の中の家族愛、もうすぐ人類が滅亡するならーー。斬新なテーマで非常に面白く、前作とはまた違った趣きでよかった。

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