八月の銀の雪

『八月の銀の雪』 伊予原 新/著

『月まで三キロ』の作者が新刊を出したと聞いて手に取った本。前作の舞台が静岡だったから、勝手に作者は静岡の方かと思っていたけれど大阪の方だった。前作も理系の世界の小難しい感じを全然感じさせず没入して読めたけど、今回も裏切らない作品。

表題作「八月の銀の雪」がやはり印象に残る。タイトルからはどんな話かわからなかったけれど読み進めていくと意味がちゃんとわかるし、どんどん読めて綺麗に終わるちょうどいい長さだった。
人間は遠い遠い宇宙へ行こうとするけれど自分たちが住んでいる星の真ん中のことは知らない。一番外の表面だけ見て知った気になってる。その本質は内側を見ないとわからないのに。

主人公の僕がグエンと出会って少しずつ自分の進む方向を自分の意思で変えていくところが、自分もすっとしてよかった。大学を休学したり就活で全敗したりマルチまがいのことに首突っ込んだりしても、沈んでしまう前に上を向けてよかった。

最後のページは自分も心に留めておきたいことが凝縮されていた。自分の芯を大きくする。うまくしゃべれなくても耳を澄ませる。その人の奥深いところに降り積もる音を聞き取る。主人公と重ね合わせるところがある分、さらに。

表題作だけでなく、他の4作もそれぞれ自分が知らない世界とその奥深さが描かれていてワクワクしながら読んだ。
生物画、伝書鳩、珪藻、凧。
こうやって並べてみると、普通に過ごしていて自分の生活にこれらが現れる機会なんてほとんどないのではないかと思う。本の世界の出会いっていいなあと改めて感じた。

『月まで三キロ』に続いて2作目の作品だったけれど他の作品も読んでみたくなる好きな作家さんになった。やはり理系ベースの物語は自分にとってすごく魅力的。きっかけは寺田寅彦の随筆で、その後逸木裕さんのAI絡みの作品も好きになったし、今回の伊予原新さんも好き。小説をきっかけにそのテーマのことも詳しく調べられたらいいな。参考文献とかも読んで。

もう1回読み直したい。良い本でした。

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