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「GEMSTONEクリエイターズオーディション リモートフィルム部門」グランプリ受賞作品「Viewers:1」が、YouTubeで1ヶ月経っても500再生しかされていなかった理由と、良いものを良いと伝えることについて

「GEMSTONEクリエイターズオーディション」は、
東宝株式会社とAlphaBoat合同会社が共同運営する
YouTube及びSNSを活用したオーディションプロジェクトです。

説明にはこうある。日本を代表する映画配給会社、東宝が主催する新人発掘企画だ。YouTubeの公式アカウントには5万人のチャンネル登録者がいる。そこに「リモートフィルム部門」のグランプリ、最優秀作品「Viewers:1」がアップロードされたのは、日付を確認すれば昨年の12月24日となっている。

僕がこの作品を知ったのは、このツイートがきっかけだ。

相互フォローの「はまりー」さんである。小説を書いている。はまりーさんが引用紹介しているツイートがこちら。

このツイートが投稿されたのは1月31日の13時10分前なんだけど、その時点では再生回数が500回にも達していなかったことがわかる。アップロード日から1ヶ月以上も経っているのに。そのツイートのリンク先にある、作品映像がこちらだ。

上のリンクをクリックして、作品を見たあなたは、きっとこの作品の素晴らしさがわかると思う。短く、シンプルで、それで深い情報量を持つセリフ。いかにも自撮り風でいて、きちんと計算された映像。恐ろしく手がかかっているであろセットと合成映像。見事な短編映画だ。それでも、この作品の再生数は1ヶ月で500にも達しなかった。東宝主催のGEMSTONE公式サイトには5万人のチャンネル登録者がいるのに、そのチャンネル登録者たちですら動画をクリックしなかったのだ。

理由は?ネットの「試聴時間の奪い合い」があまりに過酷だからだ。YouTubeの人気動画のサムネイルを見ればわかるとおり、どのサムネイル画像にもどでかい文字で、動画内容がモロに書いてある。さもなければクリックすらしてもらえない。『Viewers:1』という意味不明のタイトルと、ホームレスじみた見てくれの兄ちゃんの画像なんて、誰も内容を知ろうとすらしてくれないのだ。


「えー、なのでサムネはとても大事なんですねー。いまいまですねー自分の動画をシンプルに説明するキャッチーなコピーとー、そうですねタイトルもキャッチーに内容を説明して人を引きつけた方がいいですねー」というような、YouTube講師みたいなことを言いたいわけではない。この作品を見たあなたは、きっと『Viewers:1』というタイトルの深み、他のタイトルに変えようもないその深い意味がわかると思う。どうしてこの動画が、この冴えないサムネイル画像から始まらなくてはならないのかも。

この動画が僕のところに回ってきたのは、相互フォローのはまりーさんがツイートを引用RTしてくれたからで、はまりーさんがツイートで紹介したのは、またその引用先の人が動画を見て拡散したからである。1ヶ月もたってから。自分のフォロワーだけでもこんないい作品を知ってほしいと思いながら。

広い世の中に、多くの優れた作品がある。この冬に小劇場の演劇で見た劇団肋骨蜜柑の「2020」も、年明けに見た「ほろびて」の作品「コンとロール」も素晴らしい作品だった。そういうものを少しでも、他の誰かにパスできたらなと思ってインターネットをしている。どこか遠くにある、本来たどりつくべきゴールにその作品が届くまで、誰かがパスをつないでくれることを信じて。

今、僕にこの作品を教えてくれたツイートは1600リツイートされ、作品の視聴数は2万4千を超えている。僕が最初に見た時もう5000くらいになってたけど、わずか3時間くらいでだ。たぶんあなたが見る時には、その数字はもっと増えているだろう。でもその数字がすごいのではないということを、たぶんこの映像作品を作った人は知っていて、このタイトルをつけたのだろう。Viewers:1。たった一人の最初の視聴者。自分を見つけてくれる他者。変えるべきなのはタイトルやサムネイルではないのだ。

GEMSTONEの公式アカウントには、他にも優れた受賞作品が並んでいる。いずれも再生数はまだ数百にすぎない。でもそれらの作品もたぶん、たった一人の視聴者に出会うことを待っている。

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