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劇団ノーミーツ第二回公演『むこうのくに』は、オンラインZOOM演劇における『サマーウォーズ』になりうる名作だと思う


劇団ノーミーツ、第一回公演の評判は聞いていて、第二回公演『むこうのくに』が配信されると聞いたので、チケット買って(2,800円)オンライン観劇しました。

結論から言うと、エンタメ演劇としてすごく面白かった。2800円安いと思うくらいよかったです。たぶん自腹で金出してもう一回見ると思う。

演劇は古典から前衛まで多岐にわたる奥深い表現で、もちろん色々な客層を対象にした表現があっていい、難解前衛もエンタメも優劣はないんだけど、劇団ノーミーツ『むこうのくに』はまず、これ大衆演劇として脚本が書かれてるんですよ。敷居が低くて間口の広い、開かれたジュブナイルSFエンタメ演劇になっている。オンラインが発展してすべての人がデジタルでコミュニケーションを取るようになった近未来を舞台にすることでZOOM演劇という形式に説得的背景を与えてるんだけど、脚本というか物語の運び方があえて王道、ジュブナイルSF的に平易でわかりやすいんですね。

これは演出脚本の人たちがちゃんと考えてやってることで、ZOOM演劇という映像形式がものすごくこの状況下で強いられた特殊で見慣れない形式なので、脚本は逆にベタなまでに王道の思春期成長SFにして観客をひきつけたいというのがあったと思う。そしてそれはすごく成功していると思います。

もうひとつ、この『むこうのくに』が脚本をエンタメに振っている理由として、これはこの状況下だからハッキリ言っていいと思うんですけど、「この演劇を売るんだ、セルアウトするんだよ」という強い意志を感じました。というのは、なんでこの状況下でZOOM演劇やるかって言ったら、芸術とか前衛とか表現とかそういう高尚な話ではなく、「金のためだ」という正義があるわけじゃない?「公演ができないけど演劇でメシが食いたい、生活したい、家賃を払いたい、コロナごときで演劇あきらめて田舎に帰りたくねえ」という、ものすごく真っ当で正しい動機が、東京都の感染者が360人だか突破したこの状況下だからこそ輝いた理念として立ち上がって見える。パンクロックやヒップホップがそうであったみたいに、この状況と制約が、ともすれば「あれでしょ、ああいうのオシャレでブラブラしてる人たちが趣味でやってんでしょ」と見られがちだった演劇というジャンルに「生きるか死ぬか、前に出て拍手と札束つかむか、それとも演劇というジャンルが飢え死にするかだ」という切迫したモチベーションを与えている。

声優もしてる超かわいい尾崎由香さんが演じるヒロインの名前が「すず」なんですけど、こんなのもうベタベタのベタじゃない?平時の演劇だったら批評として色々言われると思うんですよ。でもこの状況、ZOOM演劇でオンラインで金集めて演劇で食うぞ!という正当性が担保されてると、「ヒロイン女優がクソかわいくて何が悪いんだよ」という王道が輝いて見える。パンクロックの歌詞やメロディが単純でも許せるみたいに。しかも、それ以上は話せないけど、「ベタなくらいかわいい」というヒロインの設定にもちゃんと脚本上の「実は」というリアルな裏打ちがある。

ベタなだけじゃなく演出にも工夫があって、たとえばもう1人のヒロインと言っても良いであろうイトウハルヒさんの演じる女刑事「コトリ」なんですけど、この人だけ明らかに顔に当ててる照明が違うんですよ。別室でZOOM配信しているから、個別に照明を変えられるわけ。そうするとその照明がそのままその人物のキャラクター、性格表現になるんですね。横から光を当てて顔に陰影をだすと影のある女性に見えるという照明のイロハ、教科書みたいな話なんだけど、「ZOOM演劇は闇がなく照明がきかないから平板だ」といわれる欠点を逆手にとった、照明の重要さを再発見するような演出。そういう風に、ZOOM演劇の文法みたいなものがやってるうちに生成され、完成しつつあるんですね。

出演している役者さんたちはみんな上手いんだけど、たとえばこの脚本を部活動できない演劇部の高校生たちがやろうと思ったらたぶん全然できる。それどころか、演劇部でもなんでもないその辺のヒマこいてる若者集団が、自分たちのグループで可愛い子をスズとコトリのWヒロインにしたら、もちろん演技としては下手くそだろうけど、YouTubeに上げてキャーキャー仲間内で楽しめる。それくらい「誰にでもできる、やろうと思えばお前にもできる」という平易で、しかもエンタメでウェルメイドな、ジュブナイルSF演劇脚本になっている。それって文化にとってものすごく重要なパワーなわけ。「歌なんか誰にでも歌えるからパンクバンドのボーカルになった、だから誰でも歌えるような歌しか書かねえんだよ」という甲本ヒロトの名言がありますけど、人生をギターに捧げたおっさんの渋いブルースの深みというのも音楽だけど、練習一週間みたいな若造がスリーコードでジャーンとギター鳴らしたらちゃんと演奏できるパンクロックの良さというのもある。

ほんとはもっと色々書きたいんだけど、とりあえずここまででnoteに投稿します。というのは、この演劇って四連休、昨日見たんだけど今日入れてあと3日の勝負なのね。今日の14時から二日目の昼公演、20時から夜公演なので、これを宣伝したいわけです。これは単純にノーミーツという劇団を推したい、応援したいというだけじゃなくて、「こういうZOOM演劇でもメシが食える」という方法論を広めたい、システムを根付かせたい、ノーミーツだけじゃなく、日本中の今干上がってる劇団がお互いにこういうシステムや文法をパクりあい学びあって、演劇全体に生き延びてほしいという気持ちがあります。そのためにもまず、この平易で良く出来た脚本をみなさんに宣伝したい。続きは映画のブログなどにも書くかもしれません。

というわけでとりあえずぜひ。オンライン演劇なんで、相当ギリに申し込んでも見られます。僕はスマホで電車の中で配信見ました。おすすめです。

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追伸 はてなブログに感想の続きを書きました


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