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緊急事態宣言解除は時期尚早ではないか?

本日、39県の緊急事態宣言が解除されることが決定的となっている。そもそも、当初は7都府県に発令されていた緊急事態宣言の範囲を全国化したのには2つの理由があった。ひとつには、7都府県以外での感染の流行が見られたからであり、もうひとつには、流行地域からの人口流出が懸念されたからである。すなわち、対象地域における感染状況のみを以って、緊急事態宣言が発令されたわけではないのだ。

今回、緊急事態宣言が解除されるにあたって、私が憂慮しているのは次の2点である。まず、緊急事態宣言の対象地域から解除地域に大規模な人の移動が発生するのではないかということだ。東京と大阪に挟まれた名古屋や東京に比較的近い仙台など、仕事などを求める人が一斉に移動する恐れがある。そうなれば新型コロナが再び拡散されることになり、いままでの取り組みは水泡に帰することになる。

次に、いったん解除した地域に緊急事態宣言の再発令をしたとしても、人々の感度は発令が繰り返されるたびに低減していくのではないかということである。アクセルとブレーキなどというが、我々は車ではなく人間だ。人間はそう思う通りに動かせるものではない。日本人がいくら従順といえども、緊急事態宣言の解除は事実上の安全宣言だと多くの人は認識するだろうし、その状況で再流行すれば、行政はオオカミ少年も同然となり、行政のアナウンスをだれも真に受けなくなるはずだ。

そうしたリスクを取ってまで、緊急事態宣言を勇み足気味に解除する意義はあるのだろうか。私には疑問でならない。「経済と感染症対策との両立」など耳触りのいいことが叫ばれているが、そのための方策がどれほど整備されているというのだろうか。政治家が卑しい功名心に焦り、なんとか成果を「作り出そう」としているようにしか見えない。

緊急事態宣言のもとでも、感染状況に応じた地域ごとの対応にグラデーションをつけることは可能だし、すでに各々の都道府県の対応に差はできている。東京など大都市圏にいる人間は、地方も大都市圏と同じような自粛要請を出していると勘違いしている人も多いが、そのような事実はない。新年度から学校を通常登校にしている県はあるし、いわゆる「接客を伴う飲食店」にしか自粛要請を出していない県もあるのだ。つまり、もうすでに地域の感染状況に応じた対応はなされているわけで、それにもかかわらず、大急ぎで緊急事態宣言を解除する必要はあるのだろうか。

緊急事態宣言を解除するメリットはあまりなく、「気の緩み」に典型的なように、デメリットのほうが大きいと私には思える。いたずらに緊急事態宣言を解除するのではなく、緊急事態宣言を発令したままで、段階的に警戒を緩めていくほうが各都道府県の機動性を失わないし、リーズナブルなのではないか。

小池百合子都知事が「根拠なき達成感」というよく練られた思慮深い発言をされたが、私もそのとおりだと思っている。感染の減少傾向がうかがえるとはいえ、その数字の信頼性は検査不足のために確実とはいえず、また潜伏期間と発症から検査までの期間が合わせて平均13日間といわれているなかで、短い期間でのトレンドに判断根拠を置くのはあまりにもリスキー過ぎるだろう。

以上、述べてきたように、兎にも角にも時期尚早としか私には思えない。経済のための緊急事態宣言解除ありきで、国民の生命と健康に責任を持たない、四大公害病のころと同様な人間軽視の判断がされようとしているのではないか。政治家が己の功名心に走る、緊急事態宣言解除のチキンレースに巻き込まれて、犠牲になるのはいつも名もなき人たちなのである。

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