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東京オリンピックの延期をどう見るか

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、安倍首相とバッハIOC会長が3月23日の夜に会談し、東京オリンピックの開催を1年程度延期することが合意された。具体的には、年内の開催は断念し、来年(2021年)の夏までに開催するということだ。

2月下旬頃から、東京オリンピックは早く延期を決めないとなし崩し的に中止になってしまうと危惧していたため、今回の合意の報に接し、とりあえずひと安心したというのが本音だ。IOCの側からすれば、延期するメリットはあまりなく、余計なリスクを負わずに済む中止に傾くのは必定だと見ていたからである。

また、これまでオリンピックが延期された例はなく、延期という規則もないため、大陸ヨーロッパ人特有の前例主義が幅をきかせて、彼ら(IOC)は中止ありきの発想しかしないだろうとも思っていた。

そういう情勢にもかかわらず、絶体絶命の東京オリンピックを救ってくれたのは、トランプ大統領の力強いサポートだった。トランプ大統領は再三再四、東京オリンピックの延期に言及し、国際的世論の醸成の旗振り役を果たしてくれた。世界の要人のなかで、延期論の口火を切ったのは間違いなくトランプ大統領であった。トランプ大統領の応援がなければ、東京オリンピックの延期は不可能だったと私は考えている。

こうした推論を裏付けるように、トランプ大統領が東京オリンピックの延期に言及する直前には安倍首相と電話会談をしている。また、延期が決定した直後にも、安倍首相は真っ先にトランプ大統領と電話会談を行い、決定の経緯と詳細を大統領と共有している。

今回の延期はアメリカ、イギリス、フランス、カナダ等の国々から噴出した延期論にIOCが押し切られるかたちで実現した。トランプ大統領以外にも、マクロン仏大統領、ジョンソン英首相、トルドー加首相らとも安倍首相は電話会談を行っている。東京オリンピック中止を防ぐための延期を実現するために、安倍首相をはじめとする日本政府は東奔西走し、根回しをしたことは想像に難くない。したがって、今回のオリンピック延期は、不可能を可能ならしめた、日本外交の大勝利だと断じて差し支えはない。

余談だが、今回の延期が「1年程度」ではなく、「年内開催はなく、来年の夏まで」と表現されたことに注意すべきだ。よく言われるように、夏季オリンピックの日程はアメリカのビッグスポーツの開催時期の隙間を縫うように設定されている。そのため、東京オリンピックの従来日程では7月、8月という真夏の開催とならざるを得なかったわけで、酷暑対策が課題となっていたのだ。多額の放映権料を支払うアメリカへの配慮は、当然ながら今回の延期においてもなされていて、それゆえ「秋」開催の可能性は徹底的に潰されているのである。

ところで、「年内開催はなく、来年の夏まで」とある種の締め切りを設定したことに関して、「新型コロナウイルスの感染拡大が来年の夏までに収束しなかったら、どうするんだ」と批判する声がある。これに対する私の回答は単純明快で、「そうなったらそうなったで、また1年後に検討すればよい」となる。

今回の東京オリンピック延期は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う決定である。したがって、我々人類の当面の課題は新型コロナウイルス対策一択なのであり、今はこれに全精力を注ぎ込むべき時期なのは言うまでもない。今回の延期による最大の利益は、これから先の1年間は東京オリンピック関連の事柄を政治のメインテーマにする必要がなくなったことで、延期の主眼はこの点にあると考えるべきなのだ。

我々は東京オリンピックについて1年間の猶予を得た。これこそ最も重要な事実なのであり、締め切りを設けているのはアスリートや地方自治体などの関係各位を安心させるためとアメリカへの外交的配慮という便宜上のことにすぎない。

「来年のことを言えば鬼が笑う」

我々は先行きの極めて不明瞭な、不確実性の渦中にある。不完全な情報が溢れ、目まぐるしく変化する情勢に即応しながらも、我々は決断をしていく必要がある。枝葉末節に捉われず、本質を見失わず、前進していかなければならないのである。

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