プライマリーバランスを考える
プライマリーバランスとは、日本語では基礎的財政収支というが、税収及び税外収入と国債費(国債の元本返済や利子の支払いにあてられる費用)を除いた歳出との収支のことを意味する。
財政再建との絡みで「プライマリーバランスの黒字化」という目標設定がよく言われる。これはプライマリーバランスが均衡していれば、毎年の政策的経費が税収などの毎年の収入でまかなわれていることになり、この場合の債務増加は利払い分だけとなって、利子率と経済成長率が同じであれば公債の対GDP比は一定となるので、国債残高対名目GDP比の上昇は抑えられ、財政破綻には到らないという考え方があるからだ。
要するに「プライマリーバランスの黒字化」とは、国債の利払い分は名目GDPの成長率で吸収し、国債利払い以外の歳出は新規国債発行以外の歳入でまかなうことができれば、国の借金は増加しないという考え方である。
この考え方は一面の真理だと私は思う。しかしその反面、「プライマリーバランスの黒字化」を目標とするほんとうの主旨をきちんと掴んでおかないと、とんでもない間違いを犯すとも思っている。
そもそも日本の財政がほんとうに悪化しているかどうかはひとまず置いておくことにして、ここでは仮に財政が悪化していることにする。その最大の原因は高齢化の進展に伴い、社会保障費が年々増え続けていることにある。すなわち、恒常的経費を税収等でまかなえていないことが日本の財政の問題なのである。だからこそ、プライマリーバランスの黒字化が重要となるのだろう。
ここで私が重要だと思うのは、恒常的経費がまかなえていないことが問題だという認識である。恒常的経費がまかなえない状況が続けば、国の借金は膨れ上がるいっぽうとなる。だが、深刻なのは財政の赤字状況が恒常的であることなのであって、歳出の一時的な増大はさして問題とは言えないだろう。
たとえば、景気動向が悪化していくことが予見されるような状況では、プライマリーバランスにとらわれるべきではない。なぜなら先述したように、プライマリーバランスの議論の前提となる名目GDP成長率が利子率よりも低くなってしまえば、プライマリーバランスの黒字化にこだわっても無意味となるからだ。つまり、景気対策によって名目GDP成長率の悪化を防ぐためであれば、プライマリーバランス黒字化の目標を一時的に解除するべきだということだ。
プライマリーバランスの黒字化という目標設定自体は、財政悪化を防ぐために必要なことなのかもしれない。しかし、その主旨をきちんと理解したうえでなければ、その目標のために自縄自縛に陥り、かえって財政を悪化させてしまうことになってしまう。プライマリーバランス黒字化による財政再建は、あくまでGDPが成長してこそ成立する理論だということを忘れてはならない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?