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ほんとうに新型コロナ感染者は減少しているのか?

※写真はアラン・ソーカル氏。彼はいわゆる「ソーカル事件」で有名である。

緊急事態宣言は5月末まで延長されたものの、はやくも「出口戦略」という言葉が飛び交ったりして、また、日々発表される新規感染者数も減少しているように見えることから、多くの人は新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かっていると思っているだろう。

しかし私は、そうした考えを否定するひとつの仮説をここに述べたいと思う。それというのも、私はひとつの事実に着目しているからだ。それは「新規感染者数が減少しているにもかかわらず、東京都や大阪府の新型コロナの電話相談の件数がほとんど高止まりしたまま」だということである。

あらかじめ注意を促しておきたいが、本稿ではいくつかの指標を取り上げるけれども、統計グラフなどを転記する能力は私にはない。ゆえに、詳しくは東京都や大阪府のホームページで直接確認してほしい。

まずはじめに、東京都と大阪府の人口を確認しておこう。

東京都:13,951,636人(2020年1月1日)
大阪府:8,819,226人(2020年4月1日)
人口比:東京都1:大阪府0.632

このように東京都と大阪府の人口は、3:2くらいの比率となっている。

次に、新型コロナの電話相談件数を確認する。

東京都:1,684件、累計83,169件(5月5日)
大阪府:3,430件、累計134,505件(4月27日)
比率(累計):東京都1:大阪府:1.617

なんと人口は東京都のほうが多いにもかかわらず、電話相談件数は大阪府のほうがはるかに多い。そこで、これを人口10万人あたりの電話相談件数に直してみる。

人口10万人あたりの電話相談件数
東京都:約594件
大阪府:約1,511件
比率:東京都1:大阪府:2.544

電話相談件数で見ると、大阪府は東京都の約2.5倍の件数となるのだ。

ここで、なぜ新型コロナの電話相談件数が重要なのかを押さえておきたい。各都道府県のホームページを見たらわかることだが、自分や家族の症状に不安や心配がある場合はまず電話相談をするようにアナウンスしている。つまり、電話相談は検査や治療の前段階にある最初の入口となっている。したがって、なんらかの要因がない限り、電話相談の件数と感染者数は一定の相関関係が見られるはずなのだ。人々が急に不安や恐怖に襲われたり、あるいはコールセンターに繋がりにくいなどの要因がなければ、その両者には明らかな相関関係があるはずなのである。

ところが、新型コロナの電話相談件数は4月中旬から急激に増加し、現在でもほとんど高止まりしているにもかかわらず、周知のとおり、1日あたりの新規感染者数は減少している。これは東京都でも大阪府でも変わらない。これはとても不思議なことだ。電話相談する人はあまり減少していないのに、新規感染者は減少するということがはたしてありえるのだろうか。

日本では、4月下旬から5月上旬は大型連休となっている。ゆえに、検査件数自体が減少しているのではないか、という疑問が当然浮かんでくる。そこで、次に検査実施件数を見てみる。

東京都:151件※、累計38,173件(5月5日)
大阪府:507件、累計19,212件(5月6日)
比率(累計):東京都1:大阪府:0.503

東京都の検査件数が少なく感じるかもしれないが、東京都ではまず保健所等での検査件数が発表され、数日後に民間医療機関等の検査件数を合算したトータルの検査件数が確定値として発表される。そのため、東京都の5月5日の検査件数自体は低くなっているが、累計検査件数は大阪府の約2倍となっている。対人口比での検査件数は、東京都のほうが大きいことには留意しておかねばならない。

その日あたりの検査件数は日によって変動が大きい。そこで東京都と大阪府の最多検査件数を参考にしてみよう。

1日での最多検査件数
東京都:1,778件(4月27日)
大阪府:685件(4月29日)

繰り返しにはなるが、東京都の数値はトータルの確定値ではないから断言できない。だが、大阪府は5月6日でも最多検査件数に割と近いし、そもそも大阪府の最多検査件数を記録した4月29日は祝日である。当初の検査件数はカレンダーに規定されていたかもしれないが、現在ではカレンダーはそこまで関係なくなってきているようだ。ただし、これは東京都や大阪府といった大都市部のことであって、地方でも同様とはおそらくいえないので、注意しなければならない。

大型連休であっても検査件数自体はそれほど減少していない、という推定の妥当性を確認した。しかし、これで疑問が晴れたわけではない。電話相談件数は高止まりしているのにもかかわらず、検査件数は減少していない。それなのに、新規感染者数は減少している。これはいったいどうしたことであろう。電話相談している人たちが過剰な不安を抱えてしまっているのだろうか。

私はここで、ひとつのある仮説を提示する。それは「すでに感染が確認された人たちに検査リソースが大きく割かれて、新規の検査が充分に実施されていないのではないか」というものだ。

厚生労働省が発表している「退院基準」によると、軽快してから24時間後にPCR検査を実施し、陰性になったら前回検体採取から24時間以後に再びPCR検査を実施、2回連続で陰性が確認されたら退院が可能になる、となっている。つまり、軽症や無症状の感染者は、陰性が確認されるまで繰り返し検査し続けることになるのだ。

すなわち、検査件数は既存の感染者に対する検査を含んだ数値なのであって、どれほどの割合で新規検査に配分されているかは明らかではないのである。

東京都では、新規の検査実施人数を発表している。しかし、この数値は民間医療機関の検査実施人数は含まれてはいない。指標として不充分なのである。大阪府にいたっては、新規の検査実施人数はいっさい発表していない。

新規の検査実施人数(参考)
東京都:279人(4月27日)
※4月27日は東京都の最多検査件数を記録した日で、この日の検査件数は1,778件。

東京都の数値は不充分であり、大阪府は発表自体していない(※追記:大阪府は報道発表資料には検査実施人数と陰性確認人数を併せて記載しているようだ)。ゆえに、私が提示した仮説の妥当性を検証することは、現時点では不可能である。しかし、私は状況証拠としては充分に説得力のある仮説ではないかと思っている。この仮説を改めてまとめると「すでに感染が確認された人たちに検査リソースが大きく割かれて、新規の検査が充分に実施されていないゆえに、新規感染者数が減少しているのではないか」ということである。

もし仮説のとおりだとすれば、これは大変なことになる。出口戦略などまだまだ先のことで、新型コロナウイルスはまったく終息していないことになるからだ。それにもかかわらず、いわゆる自粛による警戒態勢を緩めてしまえば、市中感染は一気に拡がってしまうだろう。

この仮説に気づいた私は「ほんとうに新型コロナ感染者は減少しているのか?」と非常に強い疑問を抱いている。東京都や大阪府はしっかりした情報公開をしてほしいし、リーダーたちの判断が勇み足とならないように願うばかりである。

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