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リュイス神戸をイチから考えよう

※6000字オーバーの大作(まとまりのない文とも言う)のため、目次から気になる項目に飛んでいただけると幸いです

春は別れの季節というが、桜もまだ咲ききらないうちにヴィッセル神戸は指揮官に別れを告げ、新たな船長との航海を決断した。ちなみに、解任の憂き目にあった三浦前監督は松永英機氏の保持していた開幕からの最短解任記録を15日も更新した。どないせえっちゅうねん。

1位 三浦淳寛 29日
2位 松永英機 44日
3位 和田昌裕 51日
4位 フアン マヌエル リージョ 54日
5位 カイオ ジュニオール 115日

そんな中、新たにこのクラブを率いることとなったのはリュイス·プラナグマ·ラモス。41歳と監督としてはまだまだ若い部類ではあるものの、実は20年以上の指導歴を持つ経験豊富な指導者である。今回の記事は、前半部分で彼の来歴及び率いたチームの戦術的志向を確認しつつ、後半部分では実際の神戸のスカッドを勘案し、リュイス神戸の将来像を予想していく。それでは。

¿quién es LIuis?

来歴

Lluís Planagumà - Manager profile | Transfermarkt

彼は1980年生まれのスペイン人。弱冠19歳にしてエスパニョールのユースチームで指導者キャリアをスタートさせ、ビジャレアルB,グラナダB,ムルシアなど、スペイン3部相当のセグンダBで監督を歴任。エルクレスでは、チームを昇格プレーオフ決勝まで導いた経験を持つ。日本では、2020年にJ3の今治で監督に就任し、約2年間当職を務めた。
個人戦術の浸透度に課題を抱える日本では、東京のアルベル氏や、徳島のポヤトス氏、元磐田のフベロ氏など、育成畑の経験が長い指導者にイチからの指導を任せるケースが多々あるが、リュイス監督も同じような意図のもと今治に招聘され、はるばる海を渡ったケースといえる。

戦術的志向を読み解くキーワード

彼のフットボールを理解するにあたり、私が参考にしたのはエルゴラッソが毎年発売している選手名鑑(2021年版)である。こういった名鑑では、各監督が注目している同業者や、影響を受けたチームなどをインタビューで問われるのが通例となっているが、気になるリュイス監督の回答はこのようなものだった。

注目している監督:マルセリーノ(ビルバオ)
影響を受けたチーム:アトレティコ・マドリー

442ゾーナルDFの名手とされるマルセリーノや、アトレティコ(要するにシメオネ)の名前を挙げているところから見るに、彼のフットボールにも同じようなエッセンスが加わっていると推測することは容易である。そして、実際のフットボールにも、彼らへのリスペクトは随所に感じられた。

リュイス今治の戦術的レポ

参考にした試合の映像はこちら

全体的な印象

・全局面において、きちんとオーガナイズされているのを感じる。”積み残し”が少ない
・基軸となるのは、こだわりを感じられるボール非保持のゾーナルDF。ボールもきちんと握りつつ、なるべくクローズにゲームをコントロールするやり方
・ロングボールでの前進も割と多いが、縦に間延びする感じはない。通らなくともコンパクトな陣形でハイプレスに移行することができている
・守備は狭く、攻撃はワイドにというセオリーを忠実に実行している。前体制時と異なり、常時サイドチェンジの選択肢を持てるようになるのはプラス要素
・雰囲気が近いなと感じたのはロティーナのセレッソ。どちらかというと、ウイング(坂元)がいなかった一年目に似ているような気がする(適当)
・現在の神戸もウイングタイプの選手はゆるキャンこと汰木しかいないので、ウイングを必要としないやり方でチームを作るしかないのかなと
・どの局面においても、Jリーグのチームにありがちな人数の過不足感があまりない。ビルドアップも可能な限り少ない人数でやろうとしているのが伝わってくる
・ポジショニングと体の向きがきちんと指導されているからなせる業なのかなと。オーソドックスで丁寧なフットボールなので、おそらくスカッドがバージョンアップするであろう神戸でどういったものを見せてくれるかはとても楽しみ
・(まぁ、怪我人ばっかりなんやけど)

ボール保持

・基本的な布陣は442だが、サイドバック,センターハーフが時折落ちる動きを使ってバックラインに加勢
・下部カテゴリーでは後方の選手のボール出しスキルにどうしても限界があるため、このやり方を用いているのだと推測する
・GKが中央に構え、CBがきちんとサイドに開くことでボール出しに必要な幅と深さを用意
・相手を動かすところまでは至らなかったものの、CBの後ろから運ぼうとするプレーは随所に見受けられた
・SBはCBのバックパスを受けられる(かといって低すぎない)位置からスタートする。右SBの駒野は頻繁にCB脇に降りてきて、バックラインの3枚目となる
・左側でこの動きを行うのは左CHの橋本。片方のCHはソロピボーテとしてきちんとセンターサークル付近に陣取り、相手トップを引き付ける
・最終的に狙いたいのは相手SBの裏なので、相手のサイドハーフにステイか深追いかの選択を迫らせる落ち方をする

イメージ図(GIF)

・裏に走るのはだいたいの場合2トップの片方。武藤や小田なら十二分に務まりそうなタスク
・両方怪我しとうねんけどな!(白目)
・中央からの前進はあまり見受けられなかったものの、ピボーテが持てばサイドチェンジの選択肢は用意されている。
・何らかの形で裏が取れれば、そこからはニアゾーンへの走り込みあり、SBのオーバーラップありとパターンは豊富
・三浦サッカーおなじみのサイド渋滞は前節限りで見納めとなりそう。サイドの高い位置で持った選手(ウイング役)に適度なスペースと時間を用意できている
・初瀬や汰木の仕掛けがより活きてくる可能性はある
・サイドからのクロスにも、ニア,ファー,マイナスの3点にきちんと受け手がいる。ファーの選択肢があるのは前体制時との大きな相違点
・SB裏へのロングボールが通らなくとも、全体がある程度押しあがったコンパクトな状態を作れているので、無理なくハイプレスに移行できる
・コンパクトにできているのはCBが運ぶ姿勢を見せているから。バックラインの選手の運ぶドリブルがなければ、後方に選手が滞留する現象が起きてしまう

ボール非保持

・442で、2トップはセンターサークルの敵陣側先端あたりで構えるのが基本形。もちろんそこからハイプレスへ行くこともある
・中央を切って、SBに誘導するベーシックなプレッシング。2トップは勤勉にプレスバックして、ピボーテポジションから相手を排除する
・サイドハーフがSBに出ればきちんと狭い間隔でのディアゴナーレでカバーを行う。苦し紛れの縦パスを絡めとる形は長谷部アビスパにも似た雰囲気を感じる
・愛媛は敵陣で結構無理めな縦パスも躊躇なくトライするチームだが、そこから広い展開に移行することを許していない
・ゾーナルに守るチーム特有の、ボール周辺に何人かでなる”壁”を作ってバックパスを強いる現象がかなりの頻度で見られた
・言葉や図では表現するのがなかなか難しいので、これは実際の試合を見て感じていただければ
・ボールを奪った後も、しっかりチーム全体で広くポジショニングして、試合をクローズにしたまま局面を移行することができている
・2トップが下がりすぎることはないので、カウンターの選択肢が持てている。サイドハーフの守備も属人的要素が少ないので、高い位置へ行こうとするSBについて行きすぎてカウンターに出られないということはない

リュイス神戸考察

前任者のキャスティング主義フットボールとは異なり、ゲームをコントロールしようとするスタイルに立ち戻るのはほぼ確実。問題はその手段なのだが、J屈指のピボーテであるセルジ・サンペールを失ってしまった今、ボール出しの質がダウンするのは必至である。よって、ひとまずは非保持のグレードアップに主眼を置き、点の出入りを減らす方向のゲームコントロールを試みるのではないだろうか。先日代表戦での発言が話題となっていた岡田武史氏も「4-4-2でゾーナルDFからカウンターで攻撃するチームなんで3週間で誰でも作れる(意訳)」と言っていたことがあるのだが、基本的に非保持時の調整にはある程度即効性がある。就任2戦目のフィンク神戸が当時猛威を奮っていた片野坂大分のビルドアップをハイプレスで破壊したように、欧州的なボール保持に取り組む監督が就任して、先に改善されたのは非保持だったという話はJリーグあるあるの一つである。

リュイス神戸・4つの気になること


1.サンペールの穴を誰が埋めるのか

前述したとおり、サンペールという唯一無二の存在がシーズンアウトのけがを負った以上、なんらかの代替案を講じる必要があるリュイス氏。ピボーテの仕事がこなせる選手として真っ先に名前が挙がるのは大崎だが、彼はそこまで層の厚くないCBのリザーブとしての仕事も請け負っており、常時この位置で起用できるかは不透明。徳島に育成型レンタル中の櫻井は、機動力とターン力でこのポジションを十二分にこなせそうなプレーをJ2で見せているのだが、さすがにこの時期に連れ戻すわけにはいかない。
よって、ここは1億円(!)もの大枚をはたいて連れてきた扇原のフィットを待ちながら、山口(サイドハーフ起用の可能性は後述)や、橋本拳人と組ませるドブレピボーテの442が最も考えられる形なのではないだろうか。正直なところ、この3人がソロピボーテの4141で完璧に役割をこなすことは難しいだろう。ポジショニングや体の向き,ターン力がこのポジションに向いているとは思えないからである。だが、2人で組ませれば、ある程度のレベルまでならボール出しのサポート役になることも可能なのではないだろうか。
個人的な希望としては、やはりフィンク時代にビルドアップで異彩を放った大崎にこのポジションで再び輝いてほしい思いが強い。しかし、ドブレピボーテを採用した場合、浮上するのが次に取り上げる問題である。

2.イニエスタはどのポジションに置くのが適切か

442の場合、我らのカピタン・ドンアンドレスをどのポジションで起用するかというのは気になるところである。サンペールの離脱に伴い、ソロピボーテ系布陣(例:4141や532)のインテリオールという彼の代名詞ともいえるポジションが設置される可能性は低い。バルベルデが監督を務めていた17/18のバルサでは左サイドハーフを主戦場にしていたこともあったものの、すでにそのシーズンからは4年が経過し、彼も37歳となった。非保持時のハードワークは期待できないし、何より左SBの初瀬と組ませるのはリスクが大きすぎる。
2トップの片割れとしてファルソ・ヌエべ的タスクを課すのが守備負担が最も少なく済みそうだが、前述したとおりトップの選手の裏へのランニングは攻撃の生命線となりそうな雰囲気がある。大迫やリンコンのようなポストプレーヤーと組ませて、このランニングが担保できるとも考えづらいし、カウンターの脅威もそがれてしまう。武藤のように、サイズがあって裏にも走れるプレーヤーと組ませるのがこの場合は良さそうだが、その武藤は離脱中である。
個人的にありそうだなと考えているのが、442の左ピボーテで彼を使ってしまうプラン。このプランは、就任当初のフィンクが用いた形でもある。映像をチェックした愛媛戦での橋本秀郎の動きは、この時のイニエスタの役割に近しいものを感じた。相方役に山口や橋本拳人らハードワーカータイプを起用すれば、なんとか成り立たせることも可能ではないだろうか。

3.不足するサイドプレーヤーはどのように補うか

昨夏の増山,マシカの連続放出から始まり、神戸の編成はまるで4312のダイヤモンド型しかやる気がなさそうな代物だったのだが、このつけが監督交代後に回ってきている。現状、左サイドハーフとして運用できそうなのは汰木,井上の2名のみ(ボージャンは試合のサンプル数が少なすぎるので様子見)。右サイドハーフに至っては、本職がゼロという惨状である。
まず左サイドから話を進めると、開幕戦、トップ下で迷子になっていたのが記憶に新しい汰木はレギュラー奪取の絶好機が来たといえるだろう。純粋なサイドプレーヤーと呼べるのは彼くらいで、リュイスがどんな布陣を選択するにせよ彼の出番は増えそうな情勢である。井上は、去年の春ごろにこのポジションを務め、バイプレーヤーとしての一定の可能性は示した。まずは試合勘を取り戻し、ACLの連戦に備えてほしいところ。
問題は右サイドである。清水戦の小田にはドリブルでちぎる順足ウイングとしての適性を感じなくもなかったのだが、彼もまた負傷を負い、いまだ病状の正式なリリースはなされていない。442の場合なら、ウイングというよりは中に入ってきてのタスクがメインとなるため、このポジションで山口を使うというのも一考に値するのではないだろうか。彼のハーフスペースへのランニングはフィンク時代の右インテリオール起用で武器となっていた。加えて、今シーズンの右サイドが最も機能していたのは、酒井と山口を組ませるACLプレーオフでの形だったように思う。

幸い、橋本拳人の加入により山口を右に回す余地は生まれている。このコンバートは、サイドプレーヤー不在の緊急事態を救う一手になりえるのではないだろうか。

4.トップの組み合わせの最適解はどれか

この話は2の項目で話したこととも関連してくるが、リュイス今治の2トップのメインタスクは裏へのランニングによるDFラインのけん制と、非保持時の中央を閉める役割。という点から、イニエスタをここで使うのはあまりお勧めできないというのが2の項の結論だった。
現状トップの選手で稼働可能なのは大迫,リンコン,ボージャンの3人(小田は病状が不明のためとりあえず除外)だが、いずれもポストプレーやビルドアップ関与が強みのタイプで、ラインブレイカーではない。
そう考えると、やはり待たれるのは武藤,小田の復帰である。武藤がJレベルならスーパーマンになれるのは去年実証されているし、小田はけが人続出の前線を支え、徐々にできることが増えてきた印象がある。スコアリングの面さえ伴えば、一気にスターダムに上り詰める可能性を秘めている。
武藤と小田、どちらが先に復帰できるかは不透明な情勢ではあるものの、彼らのようなタイプがリュイス神戸に必要なパーツであることは間違いない。


雑感

正直、クラブのSD人事にはいまだに納得がいっていないし、リュイス新監督をフルにサポートできる陣容が整ったとも思わない。けれども、個人的には今治で信用に足るフットボールを見せていた彼を最大限サポートしたいという思いが強い。彼のチームの一戦一戦を丁寧に見返すことで、少しでも彼の意図を正しく理解できればいいなと考えているし、それを記録して、より多くの人にその理解を広げていきたい。そうすることが、自分の出来る最大限のサポートなのかなと考えている。