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ルームシェア計画をしたら、女装子の夫ができたー結婚編2

 どうもです。
 大晦日に10年来の友達ナナオちゃんと入籍をした吉屋です。

 前回、飲みグループの彼氏彼女いないチームでルームシェアしたらいいんじゃね? でも、もう初老に近い年齢の男女がルームシェアって敬遠されそうだし、色々説明とか契約とか面倒くさ……。は! 籍入れちゃえばいいやん!  意味不明な思いつきを果たしました。詳しくはこちらをどうぞ。

 が、そんな急に話は進まないわけです。ルームシェア入籍(仮)が思いつきから、現実のものとなったのは? 今回はその辺を書いていきます。前回同様、すべてがノンフィクションではありません。あり得ない「結婚ファンタジー小説」と取るか、「ノンフィクション風味のエッセイ」と取るかは、お任せします。

ナナオちゃん、お引っ越し!?

 さて、「ルームシェアに関する面倒なことを、一発で解決するには入籍だ!」と考えたものの言い出す機会もなく、ただ楽しく飲む日々。

 だって、ルームシェアのためとはいえ結婚よ。いや、結婚って。我ながら「いいのか?」と疑問に思う。いやいや、仮に私はよくても、相手にちゃんと結婚願望あったら無理な話。それにダメだったとき、つき合ってない、恋愛感情ないのにプロポーズして振られるとか完全に意味不明。リスク高すぎる。さすがに飛躍した話だと自覚している。そういう手もあるなあと考えるだけなら妄想で済むけど、言葉にして外へ出した時点で逃げようのない現実となり、波紋を呼ぶかもしれない。むしろ波紋しかない。

 ある日、いつものように飲んでいると、ナナオちゃんから「引っ越しを考えてる」との言葉。しかも横須賀。

 突然のことに、みんな、ぽかーん。からの「えーーっ!? なんでー!」大絶叫よ。
 そんなに驚く?と思うかもしれないが、当時、ナナオちゃんが住んでいた場所は「家賃が安い、会社が近い」などの二次的な理由ではなく、「ナナオちゃんを楽しむこと」を目的に選んだと言っていたので、引っ越すなんてあり得ないと思っていたのだ。

 「みんなで昼間からロリータ衣装を着て遊んだり、そのまま普通に飲みに行ったりしてるから、わざわざ高い家賃のところに住む必要ないかなって。それに年齢のこともあって、迷惑かけずにひとりで暮らすには…って考えてたんだ」
 私たちの疑問に、そう答えるナナオちゃん。横須賀には知人もいて、仕事や部屋のことも相談しているとのこと。
 確かに。私たちは住んでいる場所はバラバラで、すごく遠いわけでもないけれど、何かあったときすぐ駆けつけられるほど近くはない。若い頃とは違う未来への不安を軽減する方法として、冗談みたいなぼんやりとしたルームシェアではなく、実現可能なことを考えたのだろう。
 納得しながらも、しょんぼりしている私たちを「飲みに来れるし、夏とか遊びにおいでよ!」とナナオちゃんが元気づける。うん、そうだね。横須賀行ったことないから、案内してね。カレー食べたい。バー行きたい。みんなでスカジャン、買おうか。そんな横須賀旅計画で盛り上がる。

 今までのように気楽に誘えなくなるのは寂しいけれど、ナナオちゃんの不安もわかるし解決策として納得。横須賀を案内してもらえるのも楽しみ。そして、「入籍、言わなくてよかったああああ!」と妙な安堵感。いきなりの意味不明プロポーズで玉砕するところだった。これは、ルームシェアは妄想で楽しんでおけ。そういう流れ、縁ではないよ、ということだろう。

 そう。ルームシェア話は立ち消え、当然、入籍妄想も消滅。ナナオちゃん以外もシェア話に入っていたけれど、ひとり抜けると何となく興ざめし、ふっと現実に戻ったのだと思う。せめて次、引っ越すときは誰かの近所にしようかな。賃貸組が徐々に集まっていくのも面白そうだ。

 宝くじが当たったら…の冗談話となったルームシェア。もう、私も「どうしたら実現するかなあ」とは考えなくなった。別に一緒に住まなくても、ご近所さん。それこそ歩いて行ける距離、ひと駅違いに住むだけでも、十分、心強いし楽しいに違いない。

コロナ禍で状況激変

 私はフリーランスで出版関係の仕事をしていて、コロナの影響受けまくりの大出血状態。取材できない、スタジオで集まれないこともあり……諸々あっての契約終了。はい。フリーランスの定め。ギャラの支払いは最後の仕事から2カ月後まではあるので、それまでには新しい仕事を見つけねばと久しぶりの転職活動をした。スーツなんて何年ぶりに着たのかわからない。
 何とか仕事を見つけ、給付金も申請できた。すぐ路頭に迷うことは免れたものの、ぞわぞわとした不安に侵食され「うあああああ」と叫び出しそうだった。叫ばないけど。
 今までストレス解消となっていた週に1回、スポーツクラブでのダンスやみんなとのくだらない飲みができなくなったことも、より不安を大きくしたのだと思う。
 最初のうちは頻繁にLINEでやり取りをしたり、オンライン飲みで誤魔化していたが、それでは埋まらない。
「もう無理! 会おう! 会って話したい!」
 私かシズクちゃん、どちらかともなく言い出す。つき合いたてのカップルかな。友達にも蜜月期があるとはいえ、もう10年は優に超えているのに、そんな衝動起こるもんかね。起こるんだね。
 結局、ナナオちゃん、同じく飲み仲間の安西先生、シズクちゃんのパートナー・ぺんの4、5人で会うようになっていった。以前のように都心の居酒屋ではなく、昼間の公園や都下のお店で早く帰ると変化したけれど、会ってバカ話したい欲求は満たされた。
 そして、当たり前すぎて何とも思わなかった「会ってくだらない話をする」効果を実感。オンライン飲みではわからない表情やちょっとした間、声のトーン……バカ話の楽しみは内容だけじゃなく、そうした何となく感じることで構成されていたのだ。
 結局、月に1回はこのメンバーで会うようになっていた。早めに帰るので自分の時間も取れるし、体も楽だという40代にはうれしいおまけつき。

 落ちつくと気になるナナオちゃんの横須賀行き。近々、決行するんだとしたら、毎月会うのは難しいんだろうなあと思っていると、やや延期になったという。計画していた仕事がコロナで難しくなったものの、同じくコロナの影響で行きつけのお店が軒並み休業・閉店しているから、今のところに住む理由がなくなったので時期を検討中。だったら、横須賀に行っちゃうまで、できる限り遊ぼう!と思っていた。

 え? ルームシェアは?

 この話が再燃し、一気に進み始めるのは、コロナ禍から2年経った2022年の3月頃。最近!

 このちょっと前、自宅療養していた患者さんが急変して命を落とすニュースをよく耳にしていた。ひとり暮らしにとって、最大の敵は病気。それも急変だ。今までもインフルエンザなどにかかってしんどい思いをしたことはあったが、治療薬がないコロナで急変したら……無理じゃん。しかも、すでに「もし、罹患したら」の話ではなく、友達の職場や友達の家族など、リアルな距離感に近づいてきた。うっすら背中が見えるくらいだったものが、ほんの数メートル先に迫っている。

 ひとり暮らし歴約20年、初めて「ひとりで暮らすこと」に言いようのない不安と心細さを感じた。もちろん、病気に関する不安は常にある。でも、病院に行けば何とかなると思っていた。
 今までのひとり暮らしはあくまで家族と離れているだけで、会社や病院、お店など社会とはつながっている安心感があった。その社会とも切り離され、本当にひとりにされる。子どもの頃、海で泳いでいると波に流されて、岸からも家族からも離れた場所にいることに気づいたときの不安ともう戻れないような恐怖。胃の奥が重たくなる感じを思い出していた。

 友達と会って大笑いした帰り道や仕事が終わってひと息ついたとき、生活のふとしたすき間にうっすらとした不安が顔を出し始める。マメに連絡を取るようにして、異変に気づいてもらえるようにするしかないか。もしも…に囚われていたら、何もできなくなる。うん。意識しつつ、あまり考えすぎないようにしよう。

 2022年3月某日。いつものメンバーで飲み、1軒で切り上げようとしたところ、普段、仕事で中々合流できないぺんが顔を出せることになり、2軒目まで延長。久しぶりに「もうお腹いっぱいだし、飲めればいいや」な二次会の空気を味わい、何だかテンションがあがる。
 ぺんが来るまでの間、飲みつつ雑談をしているとコロナによる変化や自宅療養中に急変の話になった。珍しく真面目な話題だ。不安を抱えていたのは、自分だけじゃないことに「そう! 今まで思わなかったのに、急に不安になった!」と盛り上がる。ひとり暮らしは家族内感染の恐れはないけど、命の不安があるよね~と言っていると、あのワードが出たのよ。
「一緒に住むのも、アリだよなー」
 ここで、ルームシェア投下。
「正直、コロナの影響もあるから家賃下げたい」
 そう私が言うと、ナナオちゃんもうんうんと頷いている。
「同じく。更新のときに今より安いとこ、前に話した横須賀に引っ越そうかなと思ってる。もう高い家賃払ってまで住む意味ないし」
「えー、だったら、みんなで住めばいいじゃん。家賃も安くなって、ひとりの不安もなくなる。何より楽しそうだし」
 シズクちゃんもノリノリに推してくる。妄想話ではなく、実際に住むとして必要な間取りや親への説明、時期など、具体的な話になっていった。
 で、例の入籍計画を思い出した……んだけど。2軒目での話だし、今日じゃないほうがいいかな。改めて、この話が出たら「こういうのどうかな?」と提案しようかなとぼんやり考えていると、安西先生からまさかの発言。

「じゃあ、男女いるんだから、どっちかと籍入れちゃえば早いんじゃね?」      

 ナイス、パスーー! シュート決めるのは、今しかない。
「だね。ナナオちゃん、籍入れようよ」
 脊髄反射の勢いで、横にいるナナオちゃんに告げる。それも「ナナオちゃん、ハイボール飲もうよ」くらいのノリ。ドリンクの追加じゃないのよ。
「いいよー」
 ナナオちゃんも「飲むー」風で承諾。

 居酒屋で入籍計画、発動。
 こんなんでいいの? ホントに?

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