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法学教室2020年4月No.475(2)

ケースで考える債権法改正 第13回 債務不履行による損害賠償の帰責事由

 ついに,債権法改正が施行された。ちゃんと勉強せにゃいかんな。一応,債権総論は有斐閣ストゥディアを買ったので,これを読み進めて行こうと思う。

 ”甲(中古車)の売買契約で売主Bが引渡債務を遅滞した”ケースを例として,帰責事由の解釈につき,過失責任説⇒契約責任説に変わって何がどう変わるかを解説するもの。
 私は今まで,履行遅滞をしたということは,遅れたこと自体が過失ぐらいの単純な考えをしていたが,過失責任説からの説明では,

債務者Bが期日通りに甲を引き渡すために様々な注意義務を負っており,その中には,期日前後に甲を使用して甲の引渡しが遅れることのないようにすることも含まれる。そうした注意義務に違反したということが,「過失」としてBの賠償責任の根拠になる

らしい。それが,契約責任説では,

債務者Bが賠償責任を負うことの根拠は,「契約の拘束力」,つまりBが契約を守らなかったことに求められる。BはAに対して10月12日に甲を引き渡すという契約をしていたのであり,それが果たされなかったこと自体が賠償責任をBに負わせる根拠=帰責事由になるのであり,これとは別に「過失」を持ち出す必要もない

とのこと。

 そもそも自分の理解が契約責任説の理解をしていて,伝統的通説じゃなかったことに気づいてなかったわ。気をつけよ…まぁ,過失うんぬんよりも契約を守らなかったという点にフォーカスする方が感覚的にもわかりやすくていい気はする。とどのつまり,

「契約で何を引き受け,何は引き受けていなかったと見るべきか」を評価する

ことになるらしい。

 近時のコロナ禍だと,就労債務の不履行につき,労働者に帰責事由があるかということが問題になりうるのかな。たとえば,以下の場合

①緊急事態宣言前に,職場で体調不良者がいないにもかかわらず,コロナに感染することをおそれて就労を拒否した場合
②緊急事態宣言前に,職場で体調不良者が出て,コロナに感染することをおそれて就労を拒否した場合
③緊急事態宣言後に,職場で体調不良者がいないにもかかわらず,コロナに感染することをおそれて就労を拒否した場合
④緊急事態宣言後に,職場で体調不良者(コロナか不明)が出て,コロナに感染することをおそれて就労を拒否した場合
⑤緊急事態宣言後に,職場で体調不良者(コロナ感染者と判明済み)が出て,コロナに感染することをおそれて就労を拒否した場合

にどうなるか。
①はとりあえず,どういった場合でも労働者に帰責事由がある就労不能になりそうだが,②~⑤はどうだろうか。職種にもよるか。

 たとえば,看護師の場合,感染症患者と接触することは看護という業務上当然に予定されているのであって,感染症になるリスクも引き受けて労働契約を締結した,だから,⑤のような場合であっても就労不能につき帰責事由あり,との結論もありうる。(※ そもそも,感染症になるリスクも引き受けていると評価できるためには,それなりの危険手当が払われている等の事情も必要だろう)
 これに対して,スーパーやドラッグストアの従業員はどうだろうか。不特定多数の人と接する業務であることは意識されていても,そのうちの誰かが感染症―しかも,有効な治療法がない上,感染力が強いものにかかっていることを想定しているとはいいがたい。そうすると,感染症になりうるリスクを引き受けて労働契約を締結したとはいえず,④,⑤の場合には就労不能につき帰責事由なし,との結論もありうる。

 このような説明を従来の過失責任説から説明しようとすると,スムーズに説明できない感じがあるので,契約責任説の方がいい気はする。

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