髙世三郎『弁護士の紛争解決力』(2)

 実践的ケース2-1をやった。
 事案は,契約当事者の争いに関するもの。省略しつつ概要を示すと,以下のようになる。

本件消費貸借契約前
・甲社(代表取締役A)と乙社(代表取締役B)は資金繰りに苦しみ,互いに資金を融通しあう関係にあった。
・甲社はノンバンクから6000万円の融資を持ち掛けられた。甲社は乙社との間で6000万円のうち,4500万円を乙社に貸し付ける覚書を取り交わした(本件覚書)。
・しかし,結局は4500万円の融資しか受けられず,そのうちの1800万円をかしつけることになった。その際,Bによって貸主を甲社,借主を乙社として,乙社の記名押印のある1800万円の金銭消費貸借証書が用意された(本件証書)
・この融資に関し,Aの知人Cが物上保証人となっていた。

本件消費貸借契約時
・Aは,4500万円の融資をうけ,その一部の1800万円を乙社及び乙社代表取締役B個人に対して貸し付けた(本件消費貸借契約)。その旨の消費貸借契約書(本件消費貸借契約書)が作成された。
・本件消費貸借契約の締結の際,Aの親族Cが同席した。というのも,Cが甲社の融資について物上保証人となっていたため,Aが本件消費貸借契約についてCの承諾が必要と考えたためである。

本件消費貸借契約締結後
・甲社と乙社は倒産し,Aが死亡し,Aの地位を子のSが相続した。
・Sは,Bに対して,本件消費貸契約に基づいて貸金残金1400万円の返還請求を行った。
・Bは,本件消費貸借契約は甲社と乙社間で締結されたものであると主張した。

主張整理
 ここまで読んで,どう主張整理するかを自分で考えた時点では,「AはBに対し1800万円貸し付けた【× 甲社が乙社に貸し付けた】と積極否認した,本件消費貸借契約書が類型的信用文書にあたって,成立の真正も認められる……となると,『甲社が乙社に対して貸し付けをする旨の本件覚書や証書が存在すること』が特段の事情となりうるかというのが争点?」と考えた。

 ちょっと研修所から離れたら,雑な検討になってしまった。本来,契約は申し込みと承諾の合致⇒申し込みをしたのはA or 甲社,承諾をしたのは乙社 or Bが争点と整理しなければならなかった。
 あと,解説によると,積極否認ではなく,通謀虚偽表示の抗弁になるとのことだった。

 しかし,契約当事者の問題って難しい……記憶では契約当事者について真正面から書いてあるのはヤマケイぐらいな気がする。
 解説では,契約当事者の問題=意思表示の解釈の問題として扱っていた。客観的解釈説 VS 付与意味基準説とかああいうので,客観的解釈説をとった上で,本件消費貸借契約からすると申し込みと承諾はAとBが契約当事者となるということだった。
 それで,Bの主張は通謀虚偽表示の抗弁と整理する,ということだったが,このあたりはちょっとよくわからなかった。まぁいずれにせよ,通謀虚偽表示の抗弁として整理することも頭にのぼらないといけなかっただろうが,ここがとんでた。

事実認定
 事実認定に関しては,解説を読む前は覚書と証書の存在で特段の事情が認められるか?いや,無理だろう…と漠然に考えて解説を読んでしまった。
 そもそも第1類型(※ 検討段階では特段の事情として位置付けた)の検討というのをやったことがない。修習でも一度もやったことがない。
 特段の事情とは,その書証の記載内容通りの事実を認定すべきではないことだが,本件消費貸借契約の前に覚書と証書があっただけでどうこうってことは……ないでしょ(適当)。


 解説では,通謀虚偽表示の抗弁が前提となっているので,本件覚書や本件証書の記載内容で真意の合致であった証明がされていなければならないところ

Aが甲社の代表者として本件証書に記名押印したという事実又はこれに準ずる事実(例えば,甲社の借入れ後にAが本件証書と同一内容の書面を作成してBにこれを送付した事実等,Aが甲社の代表者として乙社に対し1800万円を貸渡す意思であったことを裏付ける事実)が加わる必要がある
……Cの要求(Cは,乙社が最後まで返済するか不安になり,Aが責任をもって乙社ないしBに必ず返済させるよう必要な措置を求めた)が決定的に重要な意義を有していることは明らかです。本件ローンが実現するにはCが物上保証人になることが不可欠であり、Aはもとより,Bも,乙社が資金を入手するにはCの要求に従うしかなかったのであって,当時は甲社から乙社が資金を借り受けるという契約当事者及び形式を選択する旨Bが主張することは,Cに対しても,Aに対してもできなかったと考えられます。

 ということで,通謀虚偽表示は証明できていないということだった。
 確かに,Cの存在というのが動かしがたい事実で,しかも,本件消費貸借契約の肝となっているのでとても重要である。そこをすっとばしたのはよくなかった。
 で,すっとばしてしまった原因としては,当事者のストーリーが動かしがたい事実を説明できるかを検討するという大原則をすっぽかしていたことにあるから,反省しないとな。
 やっぱり定期的にお勉強しないといけない…
 最近は,実務に必要な知識のインプットで精一杯だったところもあって,基礎的な勉強がおろそかになってる。ヤバい。

全体的な振り返り
 争点整理の段階で,申し込みと承諾のところや通謀虚偽表示のところをふわっとやっていたから事実認定の段階で「Aが甲社の代表者として貸渡す意思」を意識できてなかったし,事実認定―Cの存在を全く検討できていなかった。

 ストーリーが動かしがたい事実を全て説明できるかというのは,字面ではまぁわかってるつもり…なのだが実際のケースで検討するとなると,難しいし,今回に至っては検討自体忘れていた。
 各事実の法的な意味や構造,争点を意識したうえでなければ,ストーリーの合理性をうまく検討できないと感じたし,ちゃんと順を追って検討しないといかんね。

 今回のケースは,司法試験レベルの知識が前提となった,修習中にやるような問題だったし,ちゃんとできないといけないところなんやけども,結構難しかった気がする。
 法的に契約当事者の問題は難しい気がするし,事実認定では通謀虚偽表示は難しい……集合中に一度出たが,ストーリーの把握や合理性の検討が結構難しかった記憶がある。
 まぁできてないとダメなのね…つらい……

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