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法学教室2020年4月No.475(4)

事例から考える刑事証拠法 第4講 証明力を争う証拠

 今号の事例から考える刑事訴訟法は,証明力を争う証拠を取り扱っている。司法試験に合格した年の刑訴(平成30年度)はちょうどこの問題だったな…

自己矛盾供述

 Xの過失運転致死事件において,Aは公判期日での証人尋問では「赤色信号だった」旨供述した。しかし,Aの知人Bは,「Aは事故翌日に『黄色信号だった』」と話した」「自分の知人Cも『黄色信号だった』話している」と供述したというケースをもとに,
・Bの,Cによる公判廷外の供述を証拠とすることができるか
・Bの,Aによる公判廷外の供述を証拠とすることができるか
・弁護人が,Bの話をまとめたメモを書証として証拠調べ請求した場合(※ Cによる署名・押印なし)に証拠とすることができるか
という問題。これは,判例があるから答えられなければならないところ。

 川出先生はめちゃくちゃわかりやすい解説をするのだが,裁判例の動向・328条の制定経緯等…今号はちょっと読むのがめんどくさかったし,つまみぐいして読んだ。

 まず,「証明力を争う証拠」ならなんでもいいのか?という問題がある。それについては以下の通りである。

「(328条で証拠として用いることができるとしても,)公判での供述の信用性を減殺するかぎりにおいて用いることができるのであって,第三者の供述の中で示された事実が存在したことを立証するために用いることは許されない。しかし,……「Xの自動車が交差点に進入した時,X側の信号は赤色であった」という,Aの公判における証言の証明力は,「Xの自動車が交差点に進入した時,X側の信号は黄色であった」という,Aの証言と反する内容のCの公判期日外の供述が存在することだけで低下することはなく,Cの供述が正しいことを前提としてはじめてその証明力が否定される。そうすると,この事例で,Cの供述を内容とするBの証言が許容される場合,裁判所は,Aの供述とCの供述のどちらが正しいかを判断することになるが,そのうえで,Cの供述が正しいと判断した場合に,その心証をAの公判供述が信用できないという評価のためだけに用いて、その心証に従った事実認定は行わないという使い分けをするのは困難であろう。つまり,この場合,伝聞証拠であるBの証言をCの公判廷外の供述の内容である事実を認定するための実質証拠として利用することにならざるをえないのである。しかし,このようなことを認めてしまうと,後半における被告人や証人の供述と反する内容であると言うだけで伝聞供述が広く許容されることになり,321条以下で,それぞれの書面や供述の性質に応じて伝聞例外を定めていることが無意味になりかねない。

 だからBの,Cによる公判廷外の供述を証拠とすることができない,つまり,限定説―328条で認められるのは自己矛盾供述を内容とする証拠にかぎられる,ということになる。「328条が伝聞規制の潜脱にならないように限定説とるべきだ」というフレーズを見かけるが,それは上記の内容がギュッと圧縮したものということになる。今知ったけど。
 あとはもう条文改正した方がいいよね。どう考えても条文の文言が悪い。判例も学説も多分100%一致している部分だし。

 それで,次に,自己矛盾供述なら何でもいいのかという問題がある。これを取り扱ったのが平成18年判決であり,

別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については,刑訴法が定める厳格な証明を要する

 厳格な証明が必要⇒伝聞証拠は原則使用できないということになる。そのため,自己矛盾供述自体が伝聞証拠である場合,ケースでいえば,弁護人が,Bの話をまとめたメモを書証として証拠調べ請求した場合には,原則として証拠として用いることができないことになる。逆に,Aによる公判廷外の供述は伝聞証拠ではないので328条に基づいて証拠とできる。

 ちなみに,なぜ,厳格な証明が必要かと言うと,

自己矛盾供述の存在は,公判供述の証明力に大きな影響を及ぼす事実であり,それによって訴訟の帰趨が決せられることもありうることから,確実な認定を必要とするという考慮に基づくものと考えらえる

とのこと。

 最近考えているのは,被告人が取調べ時に(録音・録画あり)公判供述と矛盾する内容の供述をしたときに,その映像や音声を328条で証拠とすることができるのか?という問題。
 録音・録画は機械的に録取されるものだから,そこに供述特有の問題が介在するとは考えられないし,供述者たる被告人の署名・押印いらずに証拠とできそう…ということは328条で請求されるの…か?でも,そうすると弁護人としては嫌だし…という悩み。
 「取調べ時の録音・録画は実質証拠としては使うことができない」みたいな話があったが,自己矛盾供述は実質証拠いうわけではないだろうし(適当),どうしたもんかね。

回復証拠

 上記のケースをもとに,Bが員面調書で「赤信号だった」と供述している場合,328条で当該員面調書を証拠とすることができるか,つまり,証明力を争う証拠に回復証拠も含まれるかという問題である。この点については,

そもそも,公判での証言と一致する供述をしていたということ自体が,自己矛盾供述の存在により低下した証言の証明力を回復させるといえるのかには疑問がある。公判での証言と矛盾する供述と,公判での証言と一致する供述の双方があるということは,供述が変遷していることを意味しており,むしろその者の供述が信用できないことを示すものだという評価も可能だからである。この立場からは,公判での証言と一致する供述をしていた事実を示す証拠は,それと矛盾した供述をしたのは特別な事情があったからであり,それがなかった状況では一致する供述をしていたという事実を立証することによりはじめて,回復証拠として意味を持つことになる。
……例えば,……Aが,公判で証言する前に,Vの母親と会って,高価な品物を受け取っていたという事実が示されることにより,Aの公判証言が弾劾された場合に,その事実があった時よりも前になされた警察官の取調べにおいても,Aが公判での証言と同じ内容の供述をしていたことを立証することにより,当該事実が公判での証言に影響していないことを示して,公判証言の信用性を回復すると言った使い方である。

とのこと。でも,これって結局特信情況の話じゃない?無理に回復証拠の議論を328条に押し込んで伝聞潜脱の危険性を高めるよりかは,ふつうに伝聞例外の検討した方がいいんでは?とはなんとなく思った。

やっぱり川出先生の解説最高…
 あと純粋補助事実の話もあったが,もう長くなったしめんどくさくなったし割愛。
 今号の解説は,「証明力を争う証拠」というのが実際の刑事手続きにおいてどのようにあらわれているのか具体的にイメージしやすく,めちゃくちゃいいと思う。単に,328条は「自己矛盾供述に限られる」「回復証拠はだめ…」とかそういった字面でものごとを考えても,体で覚えることはできないだろうし。
 やっぱ川出先生の解説は最高だわ。過去の巻末演習もやったことあるけど,一罪一逮捕一勾留の原則,その例外とかも最高だったし。早く教科書出してほしい。

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