映画「浅田家!」レビュー 写真に閉じ込められた幸福の記憶

家族写真を見ると優しい気分になるのはなぜだろう。そこには幸せの瞬間が閉じ込められているからだ。幸せな時じゃないと写真など撮らない。喧嘩したり気まずい雰囲気の時など、写真は撮らない。写真で写し出されるのは、いつだって幸せな瞬間なのだ。

写真界の芥川賞と言われる木村伊兵衛写真賞を受賞した浅田政志の「浅田家!」の仮装家族写真は、話題になったのでよく覚えている。木村伊兵衛写真賞で話題になったのは、梅佳代以来か?様々な仮装をした家族の写真は、クスッと笑えて幸福な気分にさせてくれるものだった。家族の仲の良さが伝わってくるからだ。遊び心や余裕がないと、こんな家族写真は撮らない。被写体の家族の幸福な姿がそこにあるから、見ていて幸せな気分になれる。

さて、その写真集を映画化したこの作品もまた、二宮和也、妻夫木聡、風吹ジュン、平田満の豪華キャストで浅田家を描いており、幸福な気分にさせてくれる映画だ。こんな仲のいい家族がいるだろうか?と思ってしまうほど、浅田家の家族は仲がいい。浅田政志が写真家と認められるまで順風満帆ではなかったけれど、それでも家庭の中がギスギスしていない。家庭内主夫であった父の平田満のキャラクターによるところも大きい。妻の風吹ジュンが看護師として働き家計を支え、父は家庭を守る主夫でありながら、決してイジけてもないし卑屈でもない。どこかのほほんとしているお気楽な感じの父親(平田満)が、この家族の平和な幸福感を作っているような気がする。こんな幸福な描写でドラマは成立するのか?と思いつつ後半、写真を撮ることの意味が問いかけられる。

映画では、東日本大震災における被災家族の写真の泥をぬぐって保存・返却活動をする浅田政志たちのボランティアの姿が描かれる。そこで、被災家族の頑張る姿を取材する取材カメラを横目で見ながら、浅田政志はなかなか被災地で写真を撮れない。父親を被災で失った子供に、家族写真を撮って欲しいとせがまれるが、浅田はそのリクエストに応えられない苦悩が描かれる。幸福な家族写真ばかり撮り続けてきた浅田は、被災家族にカメラを向けられない。写真には、いつも幸福の記憶が塗り込められているからだ。そして、写真に写し出されているものは、写っているものではないことに浅田が気づく。被写体だけが写真ではない。カメラを写す行為とその記憶にこそ、幸福の瞬間がある。たとえフィクションであっても、幸福な家族を演じることに価値があるのかもしれない。

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