心理サスペンスの傑作『恐怖』

アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』が大ヒットして、白黒映画の安い製作費でのサスペンスホラーは効率がいいぞということになり、翌年の1961年に製作された白黒サスペンスホラー。とても良く出来たサスペンス映画だ。脚本が練られており、後半のどんでん返しも見事。観客を欺くサスペンスのトリックだ。

主役のスーザン・ストラスバーグの不安な表情が、彼女の妄想なのか?本当の殺人事件なのか?観客を混乱に陥れる。この手法は『バニーレークは行方不明』でも同じであり、心理サスペンスで追い詰めていく主役の混乱が、何が現実なのか?分からなくさせる。そしてこの映画の特徴は、主役の女性を車椅子で歩けない障害者に設定したことだ。彼女の脚の不自由さ、行動的な制約が、さらに彼女を追い詰めていく。初めて屋敷にやってきた夜の不気味な扉の音、そして離れの部屋で見た驚きの光景、その混乱から彼女は邸内の池に車椅子ごと落ちて溺れそうになる。オープニングが、女性の溺死体が川から上がるところから始まっており、海(水)への転落がこの映画では度々描かれる。

オードリー・ヘプバーンの『暗くなるまで待てない』は、目が見えない主役の女性の恐怖を描いていた。ロマン・ポランスキーの『反撥』のカトリーヌ・ドヌーヴは、性的トラウマから心理的に追い詰められるサスペンスだったし、『ローズマリーの赤ちゃん』もまた、悪魔を身籠る精神的恐怖を描いていた。主役の女性がさまざまな精神的トラウマや身体的な病気や制約で抱え、次第に追い詰められていくのは心理サスペンスの常道だが、「車椅子で登場する美女」という設定がこの映画のとても効果的な演出になっている。セス・ホルトという監督は、その後あまりパッとした映画を残せなかったというし、主演女優のスーザン・ストラスバーグも人気女優になれず、マリリン・モンローの友人として彼女の伝記を書いて名を残したんだとか。でも、ヒッチコック映画とも肩を並べる心理サスペンス映画として必見の映画ですよ。

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