新しいレンズにしませんか?
年が明け3歳の娘の為にメガネを作ることになった。テレビの見過ぎで視力が落ちてしまった…というような単純な理由ではない。生まれつきの遠視で治療が必要になったからだ。
近所の眼科で視力を調べ、先生の指示が書かれた手紙を持ってメガネ販売店へ行った。
「いらっしゃいませ」
メガネを掛けスーツを着た感じの良い中年男性が寄ってきた。
「そちらのテーブルへどうぞ」
広い店内には四つテーブルが並んでいて、各テーブルにはアルコール消毒液が置いてあった。メガネを作るにあたって簡単な説明を受けたあと娘に似合いそうな細いフレームの可愛らしいピンクのメガネを選んだ。
「レンズはすぐにはできません。受け取りには一週間かかります。」
とのことだった。一週間後、メガネを受け取った。
「ありがとうございました。メンテナンスが必要でしたら、いつでもお越しください。」
「わかりました。」
次にお店へ来るのは、来年かもしれない。視力ってそんなにコロコロ変わるものじゃないだろうし。そう思って娘に
「バイバイして」
と言った。
が、3日後、私は娘と共にお店にいた。
「どうしましたか?」
「鼻のところの支えがどうもピッタリしてないみたいで、ズレるんです。」
微調整してもらって、うまくいったようだった。ホッとしてこれでもうしばらく大丈夫と思ったら。
一週間後、またお店にいた。
「すみません。まだズレるみたいです。」
「鼻を支えてるところをシリコンに変えてみましょうか」
その一週間後…
「夜眠っている間に、枕元に置いていたはずのメガネが朝起きたら娘の背中の下にありました…すみません…変形しました」
こんな感じでひと月の間に合計5回もお店へ行った私は、メンテナンスの重要性が身に染みてわかった。その後もコケたり階段から落ちたり壁にぶつかったり踏んでしまったり…いろんなことでメガネが変形し、レンズに傷がはいったりして、なんだかんだで二ヶ月に一回は通っている。
世の中はコロナ禍だ。近所のスーパーやコンビニのレジはセルフレジになりつつあって、店員さんの手から直接おつりを頂くことが少なくなった。そしてしっかりとしたパーテーションでお客と店員を分裂させた。
そんな中、私の通うメガネ販売店はコロナ禍前と変わらず、最後まで人対人で接客してくれる。メガネを手で受け取って、手で直してくれる。温かいサービスだ。なんと贅沢な。
2021年。
私は新しいメガネを買って心のレンズを入れ替えた。そして昔からある新しい贅沢と出会った。