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【創作】蟻地獄の夢


習字教室から帰ってくると、畑の横庭に蟻の行列を見つけた。

「タクミー帰ったのー」

母さんが家の中から叫ぶ。
日はとっぷり暮れ行列があることは分かるが、それぞれの姿はぼんやりと黒い鎖が道を流れていくように見えた。

蟻の行先を確かめ、吸い込まれていく場所を探し当てた。

おばあちゃんが花に水やりをしている緑のジョウロに水が残っていたので、蟻の巣らしき場所に流し入れた。

とくとくとく、
とくとくとく。

水を流し入れたところで興味が失せ、家の中に入ることにした。夕飯は、からあげだった。


気がつくと、さらさらなところに閉じ込められていた。
何度手をかいても、さらさらさらと薄茶色の何かが流れていくだけだった。

それを砂だと気づいたのは、湿った温い手が僕をそこから出してくれたときだ。

「二十九匹しか居なかった」
その男の子は砂だらけの温い手で、白いドレスを着た女の子の手を取った。
僕は、二十九匹目のようだ。


「じゃんけんぽん」
「ち・よ・こ・れ・い・と」

ワンピースの女の子は、僕の母さんに似ていた。

「じゃんけんぽん」
「ち・よ・こ・れ・い・と」

母さんとグリコをしたかった。 

「じゃんけんぽん」
「ち・よ・こ・れ・い・と」

僕は母さんに近づいて、よじ登った。

「じゃんけんぽん」
「ち・よ・こ・れ・い・と」

手の中に入り込めた。男の子とは違って、冷たくてさらさらな手をしていた。

「あっ」
母さんは僕がテストで80点を取ったときの顔をしていた。


「おめでとう、正解は蟻地獄だよ」
男の子が優しい声で母さんに言った。

僕は、二十九匹目で、三十匹目だった。




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