『不動産権利調整入門編 3』

相談を受ける権利調整の事案に『立ち退き』があるが、この『立ち退き』こそ、不動産管理会社がもっと積極的に行うべきだ。

ただし『立ち退き』ではなく『転居依頼』として業務にあたる事が大前提となる。

確かに、紛争が生じている立ち退き業務は非弁業務であるが、転居依頼は異なる。家主が『老朽化したので引越して頂けませんか?』と通知し、入居者が『はい、承諾しました。』となれば何ら問題ない。管理業者は、転居先のお世話をさせて頂きます。と物件検索と引越し手続きにおいて高品質のサービスを提供し、その報酬を業務委託報酬として家主から頂けば良い。(媒介報酬は転居者から頂かない)

そんな簡単な訳には進まないだろうと言われる方も多いが、私は、自己物件を含め100世帯近くの転居依頼をしているが、失敗がない。

テレビドラマで女性の外科医が「私失敗しないので!」という有名なセリフがあり、これは徹底した準備によるのだが、転居依頼業務も準備で全てが決まる。

私の著書(相続の奥義)にも書いているが、本来何ら契約上の義務を欠いていない入居者に対し、家主の都合で転居を依頼するのだから、『転居依頼』という表現が正しい。そして転居を依頼するのだから、入居者にチカラを貸して頂きたい。とお願いする事が大前提で、単純であるが、これが最大の準備である。

客観的な自分の立場を理解しながら進めると不思議とトラブルが無い。正当な事由の有無に関わらず、相手のチカラを借りる必要があるのであれば、人として頭を下げ依頼することは、一般的な社会活動や人間関係におけるコミュニケーションの基本であり法律は無関係だ。

通知時に家主の都合を隠し、あたかも正当な理由があるかの様に装って通知する(いわゆる交渉を仕掛ける)事で、お願いすれば承諾してくれる資質の相手方が不愉快(感情的)になり紛争が生じるのだ。これはクレーム対応を間違えて、一般人をクレーマーにしてしまう背景に似ている。

正直に頭を下げ丁寧に依頼をすれば、下げた頭を更に踏むような人は殆ど居ない。確かに、下げた頭を踏み、更に不当な要求をする場合もある。その様な相手には弁護士の介入を検討する事もある(経験値では1-2%)。
しかし、殆どが人格障害(パーソナル障害)と考えられるケースであるがそれでも、法的処理には至った事はない。

法律のチカラで処理する準備も当然しているが、裁判においても、適正な通知、金銭補償、対応などのプロセスが裁判官の心証を左右する事がある。この事からも、法律による明け渡し事由よりもコミュニケーションの基本を丁寧に高品質のサービスとして提供する事が円滑な転居依頼を実現させる。

だからこそ、クレーム産業と言われる不動産管理会社こそが日々の業務で培った高いコミュニケーションに磨きをかけて、高品質の転居依頼サービス(業務)を行い、報酬を得るべきである。

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