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不健康な観覧車 (#物語の発想法を学ぶ)

城跡のお堀の中に佇むその観覧車は止まっていることが多かった。

しかも、運休を知らせる立て札に
『本日は風邪のため運休』やら『腰痛のため停止中』
などと書かれていた。

だから街の人は『不健康な観覧車』と呼んだ。

それと同時にこんな噂もあった。
「ねえ、知っている?あの観覧車に乗ると病気が治るんだって!」

***

日が沈みかけた夕暮れに、ある男がその観覧車の前を通りかかった。
その男は恋人にこっぴどく振られて「もう女性なんてこりごりだ」と思いながら散歩していた。

観覧車が動いているのを見ると「めづらしいこともあることだ」とフラフラとそこに向かっていた。
すると別の方向から女性が現れ、入り口で女と鉢合わせをした。

係のものが現れ、「もう停止の時間です。最後に一周しますから、どうぞ二人でお乗りください」と男と女を一つのゴンドラに乗せた。

男は困ってしまった。
特に話すこともないため、相向いに座る女性を見ることなく、外をじっと見ていた。

頂上についた時、夕焼けが街を照らした。

「きれい」と女性のつぶやく声が聞こえた。

それをきっかけに男は女に話をかけた。
自分がどういう人間で、どんなふうに生まれ、どのように暮らしているかを語った。
そして「恥ずかしながら振られたばかりで。こんなことを言うと変な話ですが、女性が嫌いになっていたところでした」と告げた。

「いえ、実は私も男性が苦手なのです。色々とひどい目にあってきましたから」と女性が答えた。

ゴンドラは地上に近づいてきた。

「この観覧車に載ったらもう一度、女性を好きになってみようと思い直しました」
「ええ、私も。男性の中にも貴方のように話しやすい方もいらっしゃるようです」
「そうですか!では、もう少しだけ話をしませんか。近くにカフェがあるのです」

女性はコクリとうなずいて、二人は夜の街に降りていった。

***

珍しいこともあることで、翌日も観覧車は動いていた。
しかし、そこに係のものが現れて、立て札を2つ並べて立てた。

『この観覧車は女嫌いのため女性はしばらく乗車できません』
『この観覧車は男嫌いのため男性はしばらく乗車できません』

以上

「物語の発想法を学ぶ(https://note.com/events/n/n7ef57933eb42)」講座の第一回目を受講時の作品です

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